バブルの狂乱を生きたその男を、検察は35年追い続けた。圧倒的な取材でその実像に迫る渾身ノンフィクション。

 都内のタワーマンションの高層階にあるその部屋を私が最初に訪れたのは、2018年9月だった。

 玄関から繋がる約25帖のリビングに足を踏み入れ、まず目を奪われたのは、所狭しと作り付けられた4つの大きな神棚だ。

 一般家庭にある小さな神棚とは全く違う。いずれも大人の背丈を超える構えで、伏見稲荷大社の神棚や、伊勢神宮と愛宕神社と熊野神社のそれぞれの御社が一セットになった神棚が、部屋を圧迫するように祭られてあった。その傍には浅草の待乳山(まつちやま)聖天を祭った御厨子(みずし)、離れた場所には、出雲大社の御社が複数の御札とともに神棚の上に置かれていた。

 ベランダから東京タワーが見通せる絶好の眺望とは打って変わり、厳粛ながら、異様な雰囲気も漂わせる部屋。その家長の名は、加藤暠(あきら)という。

 かつて投資家集団「誠備」を率いて株式市場を席巻してきた加藤。ついた異名は、“仕手の本尊”――。仕手とは、能や狂言の主役を意味する「シテ方」に由来する言葉だ。加藤は、文字通り株式市場の舞台で主役を演じる大相場をいくつも手掛けてきた。

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source : 週刊文春 2023年5月18日号