絶頂期を迎えた誠備グループ。顧客には政治家から暴力団まで名を連ね、1000億円超の資金を動かすようになった。
東京・銀座の昭和通り。仕事帰りのトラック運転手、大貫久男が、ガードレールの支柱の上にあった古びた薄茶色の風呂敷包みを発見したのは、1980年4月25日の夕方6時頃のことだった。大貫は古新聞の束だと思い、町内会の古紙回収にでも出そうと荷台にそれを放り投げた。
帰宅後、風呂敷包みを置いたまま銭湯に行った大貫が自宅に戻ると、そこには茫然とした妻の姿。包みの中にあったのは1000万円の束が10個、合計1億円の現金だった――。
大貫は一夜にして「時の人」となった。当時、年末ジャンボ宝くじの1等賞金は3000万円。夢の億万長者を巡るニュースは瞬く間に広がり、大貫の自宅にはマスコミが押し寄せ、脅迫状やいたずら電話が相次いだ。「表に出せない選挙資金」説や「麻薬取引の代金」説など様々な憶測が飛び交ったが、半年後の期限を迎えても、落とし主は名乗り出ない。大貫は1億円の小切手を受け取り、税金を差し引いた6600万円を手にした。
1億円拾得事件は、その後も昭和史の謎としてたびたび話題になったが、当初から落とし主として本命視されていたのが、投資家グループ「誠備」を率いていた加藤暠(あきら)である。
約4000人の誠備会員を擁し、隆盛を極めていた加藤は当時、黒川木徳証券に歩合外務員として勤めながら、1億円の拾得現場から約200メートル離れた場所にあるスポニチ銀座ビルに事務所を構えていた。
事件について、加藤の妻、幸子(ゆきこ)に尋ねると、事もなげにこう明かした。
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source : 週刊文春 2023年6月8日号