証券マンとして歩み出す加藤に立ちはだかった殺人事件。そして政財界の黒幕に「信仰の道に入れ」と告げられ――。

 日本で学生運動の嵐が吹き荒れていた1968年春、加藤暠(あきら)は早稲田大学商学部を卒業し、岡三証券に入社した。株式市場は、60年代初頭から続いた証券不況からようやく脱却し、いざなぎ景気の波に乗って回復局面を迎えようとしていた。

 

 岡三証券で、加藤と同期入社の高谷利彦が振り返る。

「加藤はひどく痩せていて、言葉遣いは横柄で、若いのにマムシの粉を飲んでいた。最初は4歳年上とは知らないから、変わった奴だなと思っていました。その年の新入社員は約55人。彼は成績優秀者が行く虎の門支店に同期2人と配属された」

 加藤の遺品のなかには、新人研修で使った「新入社員教育講座」のテキストが残されていた。落書きだらけでボロボロの冊子。ページを捲ると、〈一般に底から天井をうつ迄半年かかる〉〈相場は売方が作る場合、買方が作る場合〉などと株に関するメモが青字でびっしりと書き込まれている。加藤は新規顧客を開拓する飛び込みの営業マンとしてすぐに頭角を現したが、新人らしからぬ言動は上司からの不興を買ってもいた。

新人研修で使ったテキスト

「当時の支店長代理は、加藤よりも何でも言うことを聞く従順な彼の同期の1人を可愛がっていました。そして加藤がとってきた注文を成績不振のその同期に次々と付け回すようになり、それを知った加藤が怒りを爆発させたのです」(同前)

 最後は支店長に食ってかかり、「私と支店長代理のどっちをとるんですか」と迫ったという。

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source : 週刊文春 2023年6月1日号