滋賀県の甲賀(こうか)地方は、とても“忍者の里”というような月並みな言葉では表しきれない魅力をもっている。集落の裏手にはそれぞれ“村の城”が構えられ、内外の抗争にいつでも対応できるようになっていたし、内部抗争が激化しないように自主的な掟も定められていた。いま僕らが分析に取り組んでいる永禄13年(1570)の土豪連合による一揆の掟書の中には、こんな条文も見える。

 一、不穏な世情により他所と合戦になった時、前線の城へ番衆などを配備することがあれば、相互に相談して人員を派遣するべきである。そのときになっていい加減な対応をしてはならない(第6条)。

 外部勢力から侵攻をうけた時、彼らは一致団結して郷土の防衛にあたり、真っ先に前線の“村の城”へ応援部隊を派遣することが義務づけられていたのである。それぞれに独自の軍事力をもった村や土豪が、いざという時には運命共同体として一丸となる。べつに強大な戦国大名がいたわけではなかったが、こうした土地柄ゆえに、外部の勢力もおいそれと甲賀には手出しができなかった。まさに、この地域は、そんな“自力で生きる中世”を象徴するようなパワーを秘めた土地だった。

 この甲賀の掟書のなかに、「公事持(くじもち)」という、ちょっと聞き馴れない言葉が見える。「公事」とは裁判沙汰やトラブルを意味する言葉だから、「公事持」とは「トラブルや罪を背負っている者」。つまり、どこかで罪を犯したり、トラブルを抱えている“お尋ね者”というような意味だ。

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source : 週刊文春 2023年5月18日号