人生の3分の2はいやらしいことを考えてきた。
“生”より“性”に俄然、興味があった中学生時代、黒澤明監督作『生きる』(’52)を観た。
雪が降る夜の公園で、ひとりブランコに腰掛け、
“いのち短し 恋せよ乙女♬”と、涙しながら口ずさむ初老の公務員。
医者から告げられた重い病気。
悲しみのドン底に突き落されるが、今を生きることの大切さを知るきっかけとなる――。
僕はリバイバル上映がかかった映画館でボロ泣きし、その帰り道、近くの公園に立ち寄り、ブランコに乗った。
そして“いのち短し 恋せよ乙女♬”と、主人公に成り切り口ずさんでみたのだが、どうもしっくりこない。
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source : 週刊文春 2023年5月25日号