検察に勝利し、加藤は完全に息を吹き返した。そして80年代末、魑魅魍魎が集った壮絶な仕手戦を仕掛けていく。

 

〈春がすぎ 四年目の夏がきてあの巨船が静かに浮上した船底には無念と反省と復活時の流れのなかで絡みあったもろもろの情念が新しい出発のその一瞬を待っている〉

 1985年6月、証券業界紙に「藤紘(ふじひろ)」なる投資顧問会社の散文詩のような会員募集の広告が載り、兜町で話題を呼んだ。タイトルは「再びの出発(たびだち)」。それは、検察との闘いで無罪を勝ち取った旧誠備グループ、加藤暠(あきら)による事実上の復活宣言だった。

 加藤は黒子に徹しながら、元側近らを使って会員を集め、出資金を募った。14社に及ぶ企業群を設立し、新たなスキームで仕手戦に挑んでいた。藤紘は、加藤の「藤」と消費者金融、三和ファイナンス(当時)の社長、山田紘一郎の「紘」にちなんだ社名で、山田は加藤の有力顧客だった。

 加藤が書き残したメモによれば、山田は加藤の仕手戦で約80億円の利益をあげ、1割の8億円を加藤が信奉していた長野市の活禅寺に寄付したとされる。実際、活禅寺によれば、「(86年に落慶した)大雄殿は山田の寄付によるもの」という。

 加藤の実兄、裕康は、弟から「誠備の失敗は二度と繰り返さない」と説得され、加藤の早大の後輩と3人でビジネスを始めた経緯をのちの手紙でこう振り返っている。

〈中江滋樹から貰った一億円と加藤裕康が連帯保証人になって三和ファイナンス山田から借り入れた一億円合計二億円の資本金でビジネスを発足させた(略)運よく二九億円の利益が出た〉

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source : 週刊文春 2023年7月6日号