「最も恐れていたことが現実となりました。集中治療の専門医が対応していれば、患者は死なずにすんだかもしれません」(女子医大・医師A)
東京女子医科大学病院に救急搬送された60代の男性が、ICU(集中治療室)での医療ミスが原因で死亡する事故が起きていたことが、関係者の内部告発で明らかになった。専門医が一斉に退職した後、安全性に重大な欠陥を抱えたまま運営されていた女子医大病院のICUで一体何が起きたのか? 集中治療の権威である福家伸夫氏(帝京大学名誉教授)の解説を中心に、ずさんな安全体制と死亡事故の本質的問題に迫る。
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手術を行なった消化器外科医が、専門外の集中治療まで担当
9月下旬の日曜日、60代の男性が女子医大病院に救急搬送された。強い腹痛を訴え、下血(*注1)したという。いわゆる「急性腹症」と呼ばれる状態である。救急外来で対応した若手医師はCT撮影を行ったが、原因を特定することができなかったため、とりあえず男性を一般病棟に入院させて、経過観察を行うことになった。
(*注1:肛門から血液成分が排出されること。黒色便・血便を含む)
翌日の早朝、男性は病棟で激烈な腹部の痛みを訴えた。異変に気づいた医師が、男性のCT画像を確認したところ、「フリーエア(遊離ガス)」を発見する。これは消化管穿孔(胃や腸などに孔が開いた状態)を示す特徴的なものだ。救急搬送された際に対応した若手医師が、見逃してしまっていたのである。
消化管穿孔の場所を特定するため、造影CTの撮影に向かう途中、男性は一時的に心停止してしまう。救命救急センターの医師も加わって心臓マッサージを行い、人工呼吸器を装着すると、すぐに心拍は再開した。そして消化器病センター・炎症性腸疾患外科の医師(以下、消化器外科医)が緊急手術を行い、穿孔部分を切除。手術後、男性はICUで人工呼吸器の管理を受けることになる。
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source : 週刊文春