10年ほど前、NHKの「タイムスクープハンター」という歴史番組の時代考証に携わったことがある。要潤さん演じる未来人がタイムスリップして、過去の庶民生活の様々な事象を紹介するというスタイルの、ちょっと変わった教養番組だ(2009〜15年放送)。放送当時、この番組が注目されたのは、とくに細部のリアリティーへのこだわりだった。

 たとえば、江戸庶民に注目した回では、演じる男優さんはみなカツラではなく、本当に地毛を剃って髷と月代(さかやき)を作り、女優さんは本当に眉剃りをして、歯にお歯黒を塗った。しゃべるセリフも極力当時の言葉遣いを再現し、外国映画のように字幕までつけた。

 さらに浅黒く日焼けした庶民の皮膚感を出すため、俳優さんの顔や肌には赤茶色のファンデーションに泥を混ぜたものを塗り、迫力を追求した。こういう作業を業界用語で「汚し」と言う。たまたま撮影現場を見学にいった僕もエキストラとして出演したことがあるが、身体じゅう真っ茶色にされ、風呂に入ってもなかなか色が落ちず辟易(へきえき)させられた。

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source : 週刊文春 2023年8月31日号