しめきり。この世で最も強い力を持ち、人の心を縛りつけ、その余白を奪う言葉のひとつだ。試しに寝ている私の耳元で、いや通り過ぎる私に、ぼそりと呟くだけでいい。泣きながら呪詛の言葉を吐く姿をご覧になれることだろう。たとえ締め切りという言葉が身近にない人であっても、「夏休み最後の日」とか、「進路希望調査の提出日」とかを想像すれば分かってもらえると思う。ああもう本当に締め切りとか概念ごとなくなればいいのに。でも、ないと書き始めることすらできないのもまた事実。今日も今日とて締め切り当日に泣きながら原稿を書いている。そんな私だからだろうか、『勇者様、〆切です!』を読んでいると、げらげら笑えるのと同時に、迸(ほとばし)る締め切りの魔力みたいなものに当てられ、なんかもう色々理解(わか)りすぎてくらくらしてくるのだ。

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source : 週刊文春 2023年9月7日号