「スイゾウが欲しいなあ」
練習将棋を指している弟子がふいに呟いた。え? 膵臓? その若さでどこか悪いのか……? そういえば「君の膵臓をたべたい」という映画があったな。瞬時に色々な思いが私の脳裏を駆け巡った。
よくよく聞くと、現在の将棋ではない昔の小将棋や中将棋にある「酔象」という駒のことであった。ああ、何て紛らわしい。
この酔象は名前の通り酔った象。最大の特徴は成り駒になると「太子」として玉将の代わりにもなることで、非常に強い。そして相手に取られても再度使われる心配がないのだ。
先日、王位を防衛した藤井聡太王位が、第6局の対局予定地だった牧之原市でトークショーを行った。
「自分を駒に例えると?」という質問に「皆さんはどう思われますか?」と高度な手渡しをしていた。
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source : 週刊文春 2023年9月28日号