寺田屋騒動｜伊藤秀倫

　薩摩藩にとっての“黒歴史”寺田屋騒動の現場に弥一郎もいた。

【前回まで】弥一郎ら剽悍な薩摩兵児を創り上げた郷中教育と示現流の実態を取材し、兄に劣らず破天荒な2人の弟たちを通じて「永山家」の血を探った。さらに“在野の歴史探偵”の協力を得た筆者は、いよいよ弥一郎の激動の人生に分け入っていく――本連載は西南戦争で散った薩軍三番大隊長・永山弥一郎の生涯を掘り起こす「同時進行歴史ノンフィクション」である。

【文久2年（1862）4月23日　伏見】

　志士たちは4艘の舟に分乗して淀川を遡っている。

　永山弥一郎（当時は万斎）は同じ薩摩藩の田中謙介、橋口伝蔵、弟子丸龍助、柴山龍五郎（景綱）ら同志と共に「三番」の舟に乗り込んだ。

　乗り込んだのは、そればかりではない。大きな酒樽も一緒だった。

　皆でこれを飲んでいるうちに橋口は良い気分になったとみえて、舷側に足を投げ出し横になって詩歌を口ずさみ、江戸の藩邸を脱して今回の「義挙」に加わった弥一郎と弟子丸は、江戸の流行歌を上手に歌った。江戸の歌を知らない柴山は柴山で詩吟を唸り、この舟だけはやけに賑やかだった。

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