惨劇の幕は開いた。そのとき弥一郎は何をしていたのか。
【前回まで】有馬新七を中心とする誠忠組過激派に加わった弥一郎は、京都義挙を決行すべく寺田屋の二階にいた。そこへ駆け付けたのは久光の命を受けた大山格之助ら「鎮撫使」たちである。説得か、それとも剣か。悲劇のカウントダウンが始まった――本連載は西南戦争で散った薩軍三番大隊長・永山弥一郎の生涯を掘り起こす「同時進行歴史ノンフィクション」である。
【文久2年(1862)4月23日夜 伏見・寺田屋】
寺田屋の二階は喧騒を極めていた。
握り飯をつくって腰にぶら下げる者、新しく草鞋を下ろす者、籠手や脛当をつける者、蝋燭を串に刺して夜襲用の提灯を作る者……広間のそこかしこで誠忠組の面々は京都義挙計画――関白・九条尚忠(ひさただ)と京都所司代・酒井忠義(ただあき)を襲撃し、尊王攘夷の魁となる――の最終準備に余念がなかった。そこに寺田屋の手代らしき男がこう声をかけた。
「有馬新七様にお目にかかりたいと申すお方がいらっしゃいました」
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source : 週刊文春 2023年11月2日号