騒動後、弥一郎は薩摩に送還された。その船中で悲劇が起きる。
【前回まで】誠忠組の有馬新七や公家の中山家の元家臣、田中河内介らが企てた京都義挙は島津久光が寺田屋に差し向けた鎮撫使の手で完全に鎮圧された。生き残った弥一郎らは河内介ら藩外の志士たちと共に2艘の船で薩摩へと送還されたのだが――――本連載は西南戦争で散った薩軍三番大隊長・永山弥一郎の生涯を掘り起こす「同時進行歴史ノンフィクション」である。
【文久2年(1862)5月2日 讃岐国小豆島】
昨晩から東北風(ならい)が強く吹いていた。
小豆島の漁師、伊右衛門は昨日のうちに漁網をとりまとめ、船を繋いでいたが、夜が明けてみると、風雨はさらに激しくなっていた。
急いで浜辺に向かった伊右衛門は、苦労してようやく網と船を取り込んだ。一息ついてふと顔をあげると、大風によって沖の方から流れてきたのであろうか、何か異様なものが浜辺に打ち上げられているのが目に飛び込んできた。
それは2つの亡骸であった。
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source : 週刊文春 2023年11月9日号