城下に迫る英国艦隊に弥一郎たちが仕掛けた「世紀の奇策」
【前回まで】寺田屋騒動に連座した弥一郎ら「二階組」と中山家の元家臣、田中河内介ら薩摩藩外の同志たちは共に船で薩摩へと送還された。だが幕府の意向を慮った薩摩藩上層部は田中らを船中で暗殺。この事件は薩摩の「黒歴史」となる――――本連載は西南戦争で散った薩軍三番大隊長・永山弥一郎の生涯を掘り起こす「同時進行歴史ノンフィクション」である。
【文久3年(1863)6月29日早朝 鹿児島・柴山龍五郎宅】
集合の時間が迫っていた。
「船ん中でエゲレス人と斬り合(お)うて、いお(魚)んエサい(に)なっ身じゃ」
柴山龍五郎がそう独り言ちながら自宅の縁側で愛刀――二尺ある朱鞘の兼房――の手入れをしていると、戸口に訪ねて来る者があった。
立派な紋付帷子を着込んだ永山弥一郎と弟の休二である。これから集合場所へ向かうので、柴山と弟の是枝万助を誘いに来たのだろう。
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source : 週刊文春 2023年11月16日号