島から西郷を呼び戻して反転攻勢に出た薩摩は長州と激突する
【前回まで】寺田屋騒動後、謹慎処分となった弥一郎ら「二階組」。やっと謹慎が解けた後で汚名返上をかけた薩英戦争では、「西瓜売り決死隊」に志願するなど命がけで大奮戦し、ついに英国艦隊を撃退することに成功したが被害もまた大きかった――本連載は西南戦争で散った薩軍三番大隊長・永山弥一郎の生涯を掘り起こす「同時進行歴史ノンフィクション」である。
〈永山三兄弟が揃い踏みです〉
連載第7回に登場した“在野の歴史探偵”F丸さんは定期的に〈永山弥一郎覚書〉と称する報告書を送ってきてくれる。そこには私が見逃していた事実や問題点がさらりと指摘されていることが少なくないのだが、この揃い踏みの件もそうだ。
F丸さんが教えてくれたのは、〈神瀬其他各所砲台修造ニ就キ土石運搬労役請願〉(『鹿児島県史料 忠義公史料』第二巻収録)と題された口上書である。これは薩摩藩の有志が薩英戦争において英国艦隊に完膚なきまでに破壊された砲台を築造・補修するための土石を運搬させてくれと藩庁に願い出たものである。
彼らは海岸守備の重要性を訴え、〈私共へ神瀬御築造助勢被仰付被下度奉願候、左様御座候ハヽ一同必死ニ差ハマリ、土石負荷之任自ラ相勤申度〉としている。
その日付は文久3年(1863)8月。薩英戦争終了からわずか1月後である。口上書には運搬役を志願する118名の有志の名前が並び、その中に永山弥一郎、休清(休二)、友右衛門(盛繁)の名前がはっきりと記されている。F丸さんの指摘がなければ永山三兄弟が揃い踏みしたほぼ唯一の史料を見逃すところだった。
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source : 週刊文春 2023年11月23日号