146年前、西南戦争で鮮烈な最期を遂げた「彼」のことを今や誰も語る人はいない――その謎多き生涯に気鋭のライターが挑む。

 

 熊本県上益城(かみましき)郡御船(みふね)町。

 古の時代、熊襲(くまそ)征伐のため西征した第12代景行天皇(日本武尊〔やまとたけるのみこと〕の父)が船を繋いだことからその名がついたとされる当地は、今から146年前にも戦火に見舞われた。日本国内における最大にして最後の内戦、西南戦争である。

 2022年7月、私はこの町の中央を流れる御船川のほとりに立っていた。探していたものは、駐車場の一角に植木に埋もれるようにしてぽつんとあった。

「薩将 永山盛弘戦没の地」。だがその日、この場所で起きた事に思いを馳せるとき、その白い標木よりも、私の目は駐車場の脇を川へと通じる細い道へと引き寄せられた。

 最期を迎える直前、「彼」はこの細い道を歩いてきたのだ。

 満身創痍の身体で。

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source : 週刊文春 2023年8月17日・24日号