永山が歴史に埋もれた真の理由とは――。歴史家が明かす西南戦争研究を阻む「壁」、そして国民的作家が見抜いた西郷隆盛との関係。
【前回まで】1877年、西南戦争で壮絶な最期を遂げた永山弥一郎。豪胆な人柄を愛され、西南戦争では西郷側近で唯一、決起に反対を唱えながらも、最後は三番大隊長として自らの命を差し出した男の名を今知る人は余りに少ない。永山弥一郎とはいったい何者で、なぜ忘れられたのか――本連載はその謎の生涯を掘り起こす「同時進行歴史ノンフィクション」である。
【2022年12月 慶応義塾大学三田キャンパス】
コロナ禍のキャンパスを意外なほど多くの学生が行き交っていた。
マスク越しでも響く彼らの笑い声をくぐり抜けるようにして、目的の研究室へと向かう。
「正直、永山弥一郎とはまたマニアックな、とは思いましたね」
少し距離をとって向かい合った小川原(おがわら)正道教授(法学部)は、そう言ってマスクの下で少し笑った。
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source : 週刊文春 2023年8月31日号