自動車産業の街、ミシガン州デトロイト郊外にディアボーンという街がある。フォード本社と工場があることで有名だが、住民の約半数がアラブ系だ。

 1920年代、ヘンリー・フォードが自動車工場を拡大する時、アラブ系移民を積極的に雇用した。アメリカ連邦下院議会初のパレスチナ系女性議員、ラシダ・タリーブ(47歳)の父もフォード自動車の組み立てライン労働者だった。

 タリーブ議員の両親はヨルダン川西岸、いわゆるウェストバンクに生まれた。その当時、そこはヨルダン領内だったが、1967年の第3次中東戦争でイスラエルに占領された。パレスチナ人の土地はどんどんイスラエルに奪われていった。1975年、夫婦はアメリカに移住し、翌年、長女ラシダがディアボーンで生まれた。彼女は自分の下の13人の幼い弟や妹のおむつを替えながら育った。

 ラシダが18歳になった日、父は彼女に「投票に必要な有権者登録をしなさい」と言った。イスラエルではパレスチナ人は様々な権利の迫害を受けてきたから。

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source : 週刊文春 2023年11月2日号