最近、学生の書いた試験答案などの文字が、ひと昔前より、ずいぶん汚くなっている気がする。考えてみれば、レポートも卒業論文もワープロ打ち。メールやLINEはスマホでフリック入力。いまの学生には自筆で文字を書く機会など、ほとんど無い。字が汚いからといって恥ずかしい思いをする機会も、昔に比べれば格段に減っているはずだ。これでは、彼らの書く文字が自由奔放になっていくのも仕方がない。
とくに書き順に至っては、ひどい子は本当にひどい。書いている手元を覗き込むと、いったい何の文字が出来上がるのか、見ているこちらがハラハラする。それでも最終的に出来上がった字の形が合っていれば漢字書き取りの試験などはクリアーできるのだから、まあ問題ないと言えば問題ない。そもそも現代社会において、書き順なんて知らなくたって、なんにも困りはしないのだ。
とはいうものの、僕らのような古文書を読み解く仕事にとっては、書き順というのは決してバカにはできない。「くずし字」と呼ばれる「ミミズののたくったような字」を日常的に読んでいると、「よく読めますねぇ」なんて感心されるが、あるていど読めるようになるためには、それ相応の修練を必要とする。今回は、そんな僕らの仕事の舞台裏を紹介しよう。
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source : 週刊文春 2023年11月9日号