「狭い国土」と言われながらも、なんだかんだ、わが国は地域性に富んでいる。そして、それぞれの地域ごとに“お国自慢”や“県民性”のネタは尽きない。自虐的な埼玉ネタをふんだんに盛り込んで大ヒットした映画「翔んで埼玉」は、11月には続編が封切られるという。それも、この映画が“お国自慢”や“県民性”ネタが好きな僕らの感性にマッチしたがゆえだろう。
「〇〇県民」は見栄っ張りだ、「××府民」は気位が高い、「△△県民」は“かかあ天下”だ、などなど。それが当たっているかどうかはともかく、なんとなく僕らはそれぞれの地域のイメージを語る言葉をもっている。そんなわが国の地域の個性はいつ生まれたのだろうか。その源流を注意深く探っていくと、やはり室町時代あたりに行き着くようだ。
室町末期に書かれたとされる、『人国記(じんこくき)』という不思議な書物がある。そこには、日本全国六十余ヶ国のお国柄が実に詳細に書き記されている。ただ、その内容たるや、ほとんど罵詈雑言。客観的な記述の体を取りながらも、六十数ヶ国のほとんどすべてを何かしらディスっているのだ。以下、その一端をご紹介しよう(500年前の話ですので、該当する地域にお住まいの皆さんは、どうかお怒りなく)。
〇料簡が狭く、一歩でも他国に出ると、すぐに飢え死にすると思っている人が多い。そのため主人がつれなくしても、誰も生活のために奉公を辞めようとせず、意気地が無い。(能登〔石川北部〕)
〇律儀だけど愚かである。その愚かさは日本広しといえども、この国を越えるものはないと思われる。(飛騨〔岐阜北部〕)
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source : 週刊文春 2023年11月2日号