これまでわたしはラクな生き方を模索してきた。その道のりはラクではなく、迷路にはまり込んでいるいまもラクからはほど遠い。

 だが悪夢もいつか終わりが来る。先日、この模索もついに終焉を迎えた。

 模索の方向に根本的な誤りがあると気づいたのである。長年の努力が見当違いだったと気づくいつものパターンだ。

 昔の人の夢は労働から解放された生活だった。昔の映画では、朝起きてから食事、片付けまですべてが自動化された生活が描かれていたし、何より、人類の最高の理想を凝縮した天国に労働はない。不思議なことに結婚生活も見かけない。ペットもおらず、楽器やゴルフの練習もない。隕石が飛んでくることも異常気象もない。要するに、労働や努力を要するもの、思い通りにならないものが一切ない世界が天国なのだ。

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source : 週刊文春 2023年11月16日号