白河城攻防戦で目覚ましい活躍をみせた弥一郎が銃弾に倒れる――。

 

【慶応4年(1868)5月1日 白河城】

 じくじくとした雨でぬかるんだ丘陵の間道を、永山弥一郎と薩軍小銃四番隊は黙々と進んでいる。

 この日、新政府軍は白河城への総攻撃を企図していた。その総兵力は約700、対して白河城を守る奥羽越列藩同盟軍(会津藩は同盟には加わっていないが、ここでは便宜上、同盟軍とする)は約2500。守勢より少数での城攻めは戦術の定石から外れるが、東山道先鋒総督府参謀で薩摩藩きっての軍略家である伊地知正治は、綿密な作戦を立てた。

 その作戦とは軍を中央隊、右翼隊、左翼隊の3つに分け、まず中央隊が敵陣正面にある小丸山に砲を集めて敵をひきつけた上で、両翼から奇襲攻撃を仕掛けるというもの。弥一郎が属する四番隊は右翼隊に配され、朝4時に白河の南に位置する白坂を発していた。

 当初の予定よりやや遅れて十文字(白河東南約2キロ)に到達したところで、小丸山方面に砲声を聞いた。

「こえんしちょやならん(こうしちゃおれん)」

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source : 週刊文春 2023年12月21日号