室町時代に能楽を大成させた世阿弥(ぜあみ)は、同じ劇作家として、よくイギリスのシェイクスピアと並び称される。世阿弥はシェイクスピアより200年前に活動した人物だが、シェイクスピアがその生涯に創作した戯曲が約37作であるのに対し、世阿弥が創作・改作した作品も50曲前後。長短はあれど作品数だけをとれば、両者に遜色は無い。

 ただし、世阿弥は劇作以外にも芸能論・芸術論をいくつも残しており、その点は独自の演劇論を書き残さなかったシェイクスピアとは対照的だ。なかでも世阿弥の有名な芸能論『風姿花伝(ふうしかでん)』は、現代に生きる僕らが読んでも、十分に感銘をうける内容をもっている。

 たとえば、よく僕らが人気の芸能人を語るときに「あの人には花がある」なんて言い方をする。しいて言えば「魅力」とか「個性」とでも訳すしかない芸能関係独特の言葉だが、あの「花」という言葉を最初に使ったのも、世阿弥である。

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source : 週刊文春 2024年2月8日号