ヨーロッパ社会史の名著に『チーズとうじ虫』(カルロ・ギンズブルグ著)という本がある。16世紀イタリアで異端審問にかけられた一人の粉挽き屋が語る非キリスト教的な世界観を古文書から復元した研究書だ。その粉挽き屋は、世界は「牛乳のなかからチーズの塊ができ」るようにして生まれ、「そこからうじ虫があらわれてくるように」天使が誕生するなどと語り、そのために異端者と認定され、火刑に処されてしまう。しかし、荒唐無稽なようでいて、そこには記録には残らない当時の庶民の宇宙観や自然観が反映されていた。
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source : 週刊文春 2024年2月15日号