長銀の〈機密メモ〉には、治則に支援打ち切りを通告するまでの経緯も詳細に綴られていた。それでも、彼は愛人にこう繰り返していたという。「取られたものは、また買えばいい」。

 

「ちょっと珈琲でも飲みませんか」

 1993年6月下旬、千代田区平河町にある「イ・アイ・イー・インターナショナル」(以下、イ・インター社)の本社ビル。高橋治則は、そう言って幹部の一人を社長室に呼んだ。

 多忙な日々が続き、治則はなかなかゆっくりと部下と言葉を交わす時間も作れなかった。その日は誕生日を目前に控えた幹部の労をねぎらおうと声を掛けたのだ。

 珈琲を飲みながら話を始めたその時、電話が鳴り、治則はその幹部に断わって、電話をとった。神妙な顔つきで話を聞いた後、治則は最後に「ああ、そうですか。分かりました」と言って電話を切り、幹部の方に向き直った。

「何かありましたか?」

「長銀の亀田さんですよ」

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source : 週刊文春 2024年4月25日号