バブルの残り香を追い掛けるように、愛人とプーケットを旅した治則。彼にとって頼みの綱は、東京協和信用組合と安全信用組合という二つの“財布”だった。ところが――。

 

 過熱したマスコミ報道も一段落し、潮が引いたような静寂が訪れていた。

 経営危機に陥っていた「イ・アイ・イー・インターナショナル」(以下、イ・インター社)に対し、支援の打ち切りを表明した長銀は、〈E社のその後の状況について〉と題する1993年7月27日付の内部文書のなかで、こう記している。

〈7/9以降、高橋氏と当行上層部の接触はなし〉

〈7/12に地銀、ノンバンク等から当行/営業第九部へ本件の背景についての説明要請が相次いだが、最近は至って平穏〉

 撤退したとはいえ、長銀は大口債権者としてイ・インター社の動向から目が離せない状況であることに変わりはなかった。

 一方、イ・インター社を率いる高橋治則は、長銀の管理下では、自由に海外にも行けなかった日々から解き放たれ、束の間の自由を満喫していた。

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source : 週刊文春 2024年5月2日・9日号