2信組の破綻を巡り、“極悪人”であるかのように世間の批判を一身に浴びる治則。国会の証人喚問を経て、ついに東京地検特捜部と警視庁が一斉に関係先への家宅捜索に入った。
激動の1994年が終わりを迎えようとしていた12月30日。「イ・アイ・イー・インターナショナル」(以下、イ・インター社)社長の高橋治則は、大手町の長銀本店ビルへと向かった。
12月9日に日銀が発表した東京協和信用組合と安全信用組合の破綻処理を新銀行が担うスキームは、直後から激しい批判を浴びていた。大蔵省は、2信組問題をその後の金融破綻のテストケースと想定していたが、約1000億円にのぼるバブル期の放漫経営のツケを公的資金でカバーすることへの不満が日に日に高まっていたのだ。そして、その矛先は、2信組を支配下に収めていた治則にも向けられつつあった。
この日の9時45分、治則は長銀の担当だった営業第9部の部長を訪ねた。その際のやり取りが、長銀側が作成した機密メモに残されている。
治則「今日は、各社の役員退任の挨拶と年末の挨拶にきた」
長銀「役員退任先の会社の一覧表をくれないか」
治則は、その日の午後に長銀側にファックスで一覧表を送信している。そこには12月29日付で、店頭登録していた「イ、アイ、イ」(以下、イ社)の社長、海運業のシーコムの取締役会長など14社の役員を辞任したことを表すリストが記載されていた。
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source : 週刊文春 2024年5月16日号