逮捕された弟の存在は、兄の電通社内での出世にも影響を及ぼしていく。そんな中、全面否認を続ける治則を拘置所から出すべく、治之は衆院議員の山口敏夫と向き合っていた。

 

「高橋局長、東京地検からお電話で〜す」

 電通本社で、国際的なスポーツビジネスを担当するISL事業局のフロアに秘書の声が響く。局長室の高橋治之は、苦笑いするしかなかった。

「検察から電話なんて、大きな声で言うんじゃないよ」

 その治之の言葉に、事情を知る社員の間からは笑いが零れた。

 東京地検特捜部は1995年6月27日、「イ、アイ、イ」(以下、イ社)グループの総帥で、東京協和信用組合の元理事長、治則を背任容疑で逮捕した。バブル期に海外のリゾートや不動産を買い漁った“リゾート王”の逮捕は、新聞やテレビでも大きく報じられており、電通社内でも、それが“高橋局長”の実弟であることは周知の話だった。

 治之が当時を振り返る。

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source : 週刊文春 2024年5月23日号