草彅剛が、新たな「激情の炎」を燃やしている。昨年のドラマ『罠の戦争』で復讐に身を焦がす議員秘書を演じ、鮮烈な印象を残した彼が、次に挑んだのは“怒れる武士”だった――。
草彅が主演する、5月17日公開の映画『碁盤斬り』。落語「柳田格之進」に着想を得ており、同名の武士が仇を討つべくひた走る姿を描く。『孤狼の血』などで知られる白石和彌監督が、自身初の時代劇としてメガホンをとった。イタリアのウディネ・ファーイースト映画祭で批評家により選出されるブラック・ドラゴン賞を受賞するなど、早くも世界的に注目を集めている。
「週刊文春」2024年5月23日号(5月16日発売)では、草彅の撮り下ろしカットとインタビューを掲載。ファンからも「穏やか」と称される草彅だが、実は「常日頃から怒っている」と明かす。今回演じた柳田格之進を体現するにあたり、欠かせなかったという“怒り”のエネルギー。草彅の秘めたる顔に迫った記事を、「文春オンライン」特別バージョンでお届けする。
【碁盤斬りあらすじ】
浪人・柳田格之進は身に覚えのない罪をきせられた上に妻も喪い、故郷の彦根藩を追われ、娘のお絹とふたり、江戸の貧乏長屋で暮らしている。
しかし、かねてから嗜む囲碁にもその実直な人柄が表れ、嘘偽りない勝負を心掛けている。
ある日、旧知の藩士により、悲劇の冤罪事件の真相を知らされた格之進とお絹は、復讐を決意する。
お絹は仇討ち決行のために、自らが犠牲になる道を選び……。
父と娘の、誇りをかけた闘いが始まる!
「僕は常に怒(いか)ってます」
―― 草彅さんは昨年末、ご自身のYouTubeの企画で「僕のイメージって、皆さんなんですかね?」とファンに問いかけられていました。「努力家」「健康オタク」といった声のほか、コメント欄に多く寄せられていたのが「優しい」「穏やか」「癒される」。いつも笑みを絶やさず「ポジティブでありたい」と語っている草彅さんにとって、『碁盤斬り』で演じた柳田格之進が燃やす「怒り」は、もっとも遠い感情なのでは?
草彅 よくそう言われるんですけど、僕は常に怒(いか)ってますね。最近だと寝起きに片方のまぶたが重たくて「なんで俺のまぶた、開かないんだ!」とかね。本当に細かいことですごく怒ってる。時間が経つだけで「もうこんなに過ぎちゃったの?」ってイライラしちゃうくらい。ベースが怒りだから、かえってフラットに見えているんじゃないかな。
―― ものすごく意外です。
草彅 僕は怒りに対してとても敏感なんでしょうね。でもね、みんな気づいていないだけで、人って誰しも絶対怒ってると思うの。それをエネルギーに変えて生きているわけだから。
例えば僕は10年以上ギターを弾いていて、ステージでも発表しているんだけど、未だにFを押さえられないんですよ。それどころかGも難しくてさ。Gだよ? もう「くぅ~!なんでだよ!俺10年もやってんのにどういうことだ‼」ってヒジョーにイライラする。でもその怒りが根底にあるから、練習を続けられている。「俺はいつか押さえてやる!」って燃えるんだよね。
タモリに「向上心がない」と言われて…
―― 「こうなりたい」という向上心があるからこそ、怒りが湧いてくる?
草彅 そうそう、そういう感じ。私はね、タモリさんに『お前は向上心がない人間だ』ってよく言われるんですよ(笑)。でも実はあるんですよ、私。じゃないとこんなエネルギーは出てこないですよ。
―― 格之進も怒りを原動力に、まるで命を燃やすように宿敵を追い求めますよね。無実の罪をかぶせられ、職のみならず妻まで奪われた男、という非常に重みのある役どころです。撮影時、格之進という役に対して、もしくは演じることに対して「もっとこうありたい」と怒りを感じたことはありましたか?
草彅 というより、格之進に対して純粋に怒ってたね。僕からすると、すごくイライラする人物なんですよ。自分を貫き通す気持ち、武士の誇りがあまりに強いせいで、清原果耶さん演じる娘・お絹までひどい目に合わせて。
―― 格之進が濡れ衣を着せられ、切腹しようとする場面ですね。
草彅 あんなに健気で可愛らしい娘がいるのに……。「切腹なんかしようとしやがって! なにやってんだ、この父親は!」と憤りました。まったく、ひどいお父さんですよ!
京都撮影所で突如降りてきた“閃き”
―― 草彅さんは撮影現場でも常に怒りを燃やしていたのですね。
草彅 うん、僕は格之進をすごく客観的に見ていたんです。だからこそ苛立ったし、その怒りで心を埋めることができたおかげで演じられた。でもある時、「あれ?もう一人、別の視点を持った自分がいるな」と気づいたんです。
―― 「客観的な怒りの目」以外に?
草彅 そう。格之進は敵を討つために旅へ出て、汚れてボロボロになっていく。そんななかでも己を貫き通す魂の強さはけっして変わらない。僕自身に、そしてこの現代においてもまったくない、強烈な輝きを秘めているように感じたんです。「ああ、これがテーマなんだ。俺は格之進の“魂の輝き”を表現しないといけないんだ」と突然閃いて! 白石監督もきっと同じ想いだったんじゃないかな。
―― 表裏一体ですね。草彅さんが苛立ちを感じていた、格之進の「何があっても己を貫く」姿は、一方で、強く惹かれる生き様でもあった。
草彅 そうそう! 「俺は今、格之進に怒っているけど、この感情の源こそが一番大事なんだ。『碁盤斬り』のもっとも大切な核なんだ」って。それに気づけた僕ってカシコイよね(笑)。格之進の魂の輝きを表現しなければ、この映画は成功し得ない。絶対に曲げない強さ、「もう折れればいいじゃん」と苛立ってしまうほどの誇り高さに近づきたい、掴みたいって日々もがいて……あれ、僕なんだかカッコいいね⁉(笑)
「俺って顔、綺麗だったんだって(笑)」
―― 格之進は「水清ければ魚棲まず」と例えられるほど謹厳実直です。『碁盤斬り』クランクインの直前まで演じられていた『罠の戦争』の主役・鷲津亨も、当初は忠義を尽くす真面目な男でした。そして格之進も鷲津も、不義理を働かれ、復讐を決意する。「仇を追う怒れる男」という点では共通していますが、同じ怒りでも、両者は眼の光、発声の仕方から何からまったく異なります。格之進は武士だからなのか、腹の底から怒声が轟いているように感じました。
草彅 僕もね、映像を観て「あれっ、声が違うじゃん」とびっくりしたの。京都撮影所で時代劇を撮るって、タイムスリップしたような感覚になるんですよ。自分が意識していないところまで作られていく。「俺、ちゃんとやってんなあ。できちゃってんなあ」と感心したんだけど(笑)、そうなれる環境を周りが作ってくれているんだよね。とくに時代劇はかかる労力が現代劇と全然違いますから。やっぱり一人で構築できるもんじゃないですよ。どの作品もそうですけど、みんなの力が重なって、そこに役が乗っていく。
扮装の力も大きくて、ものすごく時間をかけて格之進としての見た目を仕上げていただいているうちに、姿勢もしゃんと伸びていく。本当に「武士です」という佇まいになるんだよね。
―― その時代に、役に、自然と入っていくんですね。敵を追い求めて旅をするうち、徐々に髭がぼうぼうと生え、肌や着物が汚れていく様も凄まじかったです。キービジュアルの横顔もまるで別人のようで。
草彅 とにかくね、付け髭が痒くて! 普通に伸ばしても僕はあんなに生えないからねぇ。今の特殊メイクってすごいんですよ。大きい髭だけじゃなく、一本一本、肌に付けたりもしているの。それがもうめっちゃ痒くて。花粉症で鼻をかむたびに髭を付け直すわけですよ。それはもう大変だったんです。
あと肌の汚れはね、泥塗ってんの! 仇役の(斎藤)工くんと会うまでに、どんどんどんどん汚されて……。泥もまた痒いのよ、乾くとカピカピになってきて。でもとっちゃダメなの、シーンの繋がりがおかしくなっちゃうから。顔が毎日すっごいボロボロになって、枯れていく感覚でした。
―― 凄まじいですね……。でも黒く汚れた肌の中だからこそ、らんらんと光る眼の強さが際立っていました。格之進の「極限状態でも折れない誇り」を体現したビジュアルですね。
草彅 すごい仕上がりだったでしょ? 僕の特殊メイクは、ディメンションズの江川師匠(メイクアップディメンションズの江川悦子代表)がやってくださって。大河ドラマ(『青天を衝け』の徳川慶喜役)でもお願いしたんです。僕、大好きなんですよ。本当にプロ中のプロ。こういう特殊メイクは江川師匠じゃないと絶対に嫌なんです。僕の顔を熟知しているから、すごく自然で、取ってつけたようにならない。あの「襤褸(ぼろ)の美学」は、ディメンションズの江川師匠じゃないと作れないですよ。
―― エッセイ『Okiraku』では『任侠ヘルパー』撮影後、「(役が普段にも残って)顔がキリッとしてる」と振り返っていましたが、格之進を演じ終えてからの“顔つきの変化”は感じますか?
草彅 5歳若返った! ほら、髭からも泥からも解放されたから(笑)。撮り終わってから自分の顔を見たら「なんか俺爽やかだ、顔、綺麗だった!」と思って。それくらいクリーンになっちゃった!
碁石を握りながら寝落ちして…
―― 今回の取材にあたって『黄泉がえり』や『台風家族』などのご出演作を観返したのですが、どの作品の中でも、草彅さんはその役を「まったく違う人」として生きていらっしゃいました。「草彅剛」という誰もが知る名前が、映画を観ている間はふっと消えて透明になる。だから、その人物が真に迫ってくるんだなと。『碁盤斬り』でも柳田格之進、その人でしかありませんでした。
草彅 ありがとうございます。役者冥利に尽きます。
―― とくに碁を打つときの所作がとても印象的でした。格之進は碁を嗜み、「世知辛い世の中ですが、囲碁だけは、正々堂々嘘偽りなく打ちたいのです」と語ります。凛と張りつめた指先には濁りのない美しさがあって、まさに彼の信念を表しているようでした。
草彅 打ち方はめちゃめちゃこだわりました。やっぱり指先に、格之進の役が出るんじゃないかと思って。あの打ち方ができて本当に良かった。國村(隼)さん(萬屋源兵衛役。格之進と碁を通じて交流を深める)とはちょっと違うんですよ。碁石を使って、ふっ、と回しながら人差し指と中指に挟んで、滑らせながらパチッと置く。そうやって打たなくてもいいんだけど、棋士の方(井山裕太王座。本作に出演)の所作を見て「いいな」と思って。白石監督と「ここではどう打つか」を話し合って、まさに“決め打ち”しました。
囲碁のルールはまったくわかんないんだけど、碁石を置く仕草だけはずっと鍛錬していましたね。けっこう難しいことをやっているんだけど、そうは悟らせず、何気ない所作に見えるように。それこそ寝ながらでもできるくらいにしましたよ。移動中もベッドに入ってからも碁石をずーっと手のひらで転がして、そのままパタンと眠っていましたから。
草彅剛入魂の“手で語る葛藤”
―― なかでも忘れられない打ち方がありました。序盤、格之進は源兵衛と碁を打ちながら、つましくも穏やかな日々を過ごします。ところがいつものように手合わせしている最中、かつて自分の下で働いていた梶木左門が現れ、妻の死の真相、そして仇の名を知らされる。その動揺、怒りを、台詞ではなく「囲碁を打つ手」で語っていました。
草彅 おおっ、私の思うつぼですねえ(笑)。気持ちいいところを掻いてくれますねぇ、そこはぜひ注目してほしくて。やっぱりね、すごく難しかったんですよ。けっして声を荒らげるわけじゃないし、碁を打っているなかで葛藤を見せないといけない。今まですごく冷静だった格之進が一大事になることがあって、それが碁に出て、源兵衛に悟られてしまう。物語の展開がガラッと変わるシーンなので、ものすごくこだわりました。非常にテクニカルな心情を作ってね……私はね、カシコイからね(笑)。
―― 手だけでこんなに語れるのかと驚きました。碁に向き合うときだけは、自分は嘘をつきたくないと言っていたのに、感情の震えが何気ない仕草に出てしまう。
草彅 そうなんですよ。囲碁が人柄を表すという意味でも、本当に大事な局面でした。この映画は碁を打っているとても静かな場面から始まって、徐々に激しさを増していきます。白石監督も初めての時代劇とあって、エンジンのかけ方を細かく調整なさっていました。僕も序盤が静かで美しければ美しいほど、後半に響いてくるんじゃないかなと思って。
源兵衛さんと囲碁で友情を築き上げていく過程、碁を通じてその人を見つめる姿を、とても丁寧に撮っていただきました。画面にも感情の流れがとてもよく表れていましたよね。いいシーンで、僕自身すごく気に入っています。
「TikTokで囲碁ブーム、来ちゃいますよ!」
―― 源兵衛の打ち方も、格之進と手合わせするうちにどんどん優しく、穏やかに変わっていきます。
草彅 面白いよね。人がね、見える。作戦もそうだけど、戦いの中にその人が立ち上がってくるんだろうね。大胆な手なのか、ちょっと姑息なのか、ジンワリいくのか。性格が全部、碁に表れるんだよね。碁石の白と黒も、人間の表と裏を象徴している気がする。
作中で登場する碁盤、実は江戸時代に使われていたものなんですよ。碁石も今のものと違って、膨らみがなくてぺったりしている。なかなかお借りできない貴重なものです。やっぱり歴史を重ねてきたオーラが出ているというか、映画で描かれた人生、この碁盤で実際に打っていた、遠い時代の人々の人生が表れている気がして……。深いですよね。
―― 映画を拝見して「碁ってものすごくかっこいいな」と感じました。
草彅 でしょう? これはね、新しいムーブメントを起こしちゃいますよ。うん、来ますよ、囲碁! 将棋ブームですけど、囲碁も来ちゃうね。映えるもん、TikTokで。「渋い」と思われがちだけど、一周二周まわってね。
「まじかよ!?」と驚愕した怒涛の展開
―― 前半では囲碁で友情を深める姿が描かれますが、後半では囲碁を介して怒涛の展開が繰り広げられます。ネタバレになるので詳細は避けますが、旅路の果てにようやく宿敵を見つけた格之進が「……まさかそう来るとは!」と衝撃でした。
草彅 そう、まじかよ⁉って。でもめちゃめちゃかっこいいよね、凄い世界だと思う。そこら辺は落語の世界が噛んでいてね、面白い化学反応が起きていると思うんだよね。
―― 現代で一から武士の復讐劇を作るとなったら、おそらくあの展開にはならないと思います。
草彅 できないよね。あそこまでわかりやすくて極端なのは、落語がもとだからこそだよね。脚本家の加藤(正人)さんがうまく脚色して、絶妙に落とし込んでくれている。それを白石監督が映像にして……いろんな化学反応が起きて、すごくうまく練られている。
―― 落語も囲碁と同じく何百年もの時を重ねた文化ですが、そうであるがゆえに新鮮にも映ります。それでいて今を生きる観客の気持ちにフィットする人情があり、怒涛の剣撃といったエンタメも盛り込まれていて、とても緩急とリズムがある作品だと感じました。試写をご覧になったファンの方々も「(草彅さんの)新たな代表作になる」と熱い感想を投稿されていましたね。
草彅 僕自身、『碁盤斬り』は新たな代表作だと思っていますね。僕が今持っている力を全て出し切っている。日本の文化も詰まっているし、ここにきて「時代劇だ!」っていうさ。それもすごく新しい色のね。時代劇好きな人はもちろん、そうじゃない人も1回見てみてほしい。絶対に響くところがありますから。今のこの時期、時代で、この作品をやることにもめちゃくちゃ意味があると思うし、あらゆる人を巻き込んで『碁盤斬り』を届けたい。うん、これはね、名作ですね。出ました、「#名作、代表作の碁盤斬り」!感想をつぶやくハッシュタグはこれで!
江頭2:50ばりの演技バトル!?
―― 名作の座長を務められた喜びが伝わってきます。草彅さんはじめ、清原さんや國村さん、斎藤さんに小泉今日子さん、中川大志さん……皆さんの役者魂がこもっていて、どのシーンをとっても「真剣勝負」でした。
草彅 そう! 演技バトルだよね。先輩も若い方々も、みんなものすごいエネルギーを出してるよね、バーッて! その熱量、パッションを浴びながら、それを受けて「じゃあこっちも返さないと!」っていう感じで、受けて出して……もう江頭2:50ですよ。取って入れて出してみたいな(笑)。
―― 最後に、草彅さんご自身についても伺わせてください。格之進はこれだけ真っ直ぐな人で、「曲げられない武士の誇り」が芯にあります。そこを大切に演じられた草彅さんご自身にとっての「これだけは曲げられない誇り」は何でしょうか?
草彅 自分に正直でいたい。やっぱり一度きりの人生、自分に嘘はつきたくないなって。楽しくないのに楽しそうなふりをするとかね。それだけでは生きていけないところもね、人生っていうのはあるんですけど……でも自分が楽しいなと思う方に向かって生きていくことは曲げたくない。そんなふうに思うかな。
「あんな顔つき、体つきになりたくて…」
―― 役者としては、また新境地を開いていかれたい?
草彅 そうですね、せっかくやるならね。でもおかげさまで、やったことのない役ばかりいただいて。極端なことを言うと、人って毎日微妙にどこかが違うと思うんですよ。顔とかも気持ちとかも。それに順応して生きていれば、新しい役が舞い降りてきて演じられるんじゃないかなって自分では思っています。
―― これからも様々な顔を見せてくださりそうで楽しみです。役ではなく、ご自身としては今後、人格や佇まいも含めてどんな「顔」になっていきたいですか。
草彅 老いていくのはもう誰しもの運命で抗えない。でも僕はただ枯れて朽ち果てていくんじゃなくて、自分なりに楽しみながら、再生しながら抗っていきたい。僕の好きなヴィンテージジーンズを見ていると、すごくそう思うの。シワとか汚れとか傷とかあるんだけど、その中に輝きがあって、めちゃくちゃカッコいい。ギターもガシャガシャに弾かれたやつって、傷がいっぱいついてるし、乾燥してパキパキになっていて軽いんだよね。でもそんな体で鳴らす音は、いぶし銀のような趣がある。襤褸の美学を見せてくれた格之進と同じでさ。だから最終的には、自分自身がヴィンテージになるような顔つき、体つきになっていきたい。
―― 重ねてきたもの全部が、たとえ傷すらも輝きに変わるぐらい。
草彅 うん。そういう人間になりたい。なれたらいいですけどね。
―― その過程や到達点をファンに見せられたら素敵ですね。
草彅 そうありたいですよね。やっぱり演じることって、役があれば、生きてさえいれば何歳でもできるじゃないですか。大変でもあり強みだと思うんですよ。70、80歳のヴィンテージになった僕を見せられたら最高だよね。
アイドルとして「再生」し続けたい
―― 以前「週刊文春」(2023年12月21日号)で朝ドラ『ブギウギ』の秘話を伺った際、「僕はやっぱりアイドルだからね」とおっしゃっていました。その意識は今後も軸になり続けていきますか。
草彅 そうですね。「アイドルとしての自分」は僕の根底にある、小さいときからやってきたベースなので。幸せなことに今もひと月に1回、ファンミーティングと題して大きなステージを用意していただいていますから。
―― 10代、20代とごく若い時期で卒業されるアイドルも多いなか、これだけ長い期間にわたってずっと輝いていてくださるのは、ファンの方にとって大きな希望だと思います。
草彅 僕、アイドルだからね! 今でもバリバリ歌って踊ってますからね! まじだよ、うん!結構疲れますけどねぇ。いや、そこも抗っているからね。ただ単に歌い終わるわけにはいかないんですよ。
―― 先ほどおっしゃっていたように、アイドルとしても再生し続け、抗いながら「ヴィンテージ」な存在へと向かっていく。
草彅 そうなのよ! キーも落としてないですからね。抗ってるの! いつかは落としていきますけど、その時はその時でまた「再生」の方法を考えます。ステージもぜひ観てほしいです。ファンミーティング、楽しいんですよ。本当にね、ファンの皆さんもいい人ばっかりで。エネルギーのキャッチボールをしているので。
―― 草彅さんとファンの皆さん、互いに放つ光を反射し合っているんですね。
草彅 あっ、それいいですね!うん、本当にそうだと思う。ファンの方がいての僕なので。原動力です。
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「週刊文春」5月23日号(2024年5月16日発売)では、カラーグラビア4ページで「草彅剛 “怒り”の肖像」を特集。碁石の「白」と「黒」になぞらえた柔らかな笑顔と力強い眼差しなど、撮りおろしカット3点を掲載している。怒りのエネルギーを燃やしながら新境地に挑み続ける草彅の、まばゆい「今」をぜひその目で確かめてほしい。
草彅剛(くさなぎ・つよし)
1974年7月9日生まれ。1991年CDデビュー。主な出演作は、『黄泉がえり』(03/塩田明彦監督)、『日本沈没』(06/樋口真嗣監督)、『あなたへ』(12/降旗康男監督)、またテレビドラマは「僕と彼女と彼女の生きる道」(04/CX)、「任侠ヘルパー」(09/CX)、大河ドラマ「青天を衝け」(21/NHK)など、多数作品に出演を果たす。2017年には「新しい地図」を立ち上げ、その後自身主演の『光へ、航る』(太田光監督)を収めたオムニバス映画『クソ野郎と美しき世界』(18)は2週間限定公開の中、28万人以上を動員し、大ヒット。また、「アルトゥロ・ウイの興隆」(作:ベルトルト・ブレヒト/演出:白井晃/2020、2021~22年に再演)、「シラの恋文」(作:北村想/演出:寺十吾/23~24年)など舞台作品にも出演。その他出演作に、西加奈子原作の『まく子』(19/鶴岡慧子監督)、『台風家族』(19/市井昌秀監督)、第44回日本アカデミー賞最優秀作品賞・最優秀主演男優賞に輝いた『ミッドナイトスワン』(20/内田英治監督)、『サバカン SABAKAN』(22/金沢知樹監督)などがある。
source : 週刊文春 2024年5月23日号