最高裁での逆転無罪に望みを託す治則は、草月会館7階の事務所を拠点に復活を期していた。2005年6月にはあの“米国の不動産王”と面談し、意気投合もしたのだが……。

 

 その奇妙な謝罪文が、朝日新聞と読売新聞に掲載されたのは、2003年8月21日のことだった。

 米国大手のシャーマン・アンド・スターリング法律事務所のパートナー代表弁護士が、破綻した「イ・アイ・イー・インターナショナル」(以下、イ・インター社)の清算人弁護士に宛てたもので、翻訳風の難解な言い回しが多用されているため、一読しただけでは意味が掴み辛いが、肝となるのは次の文章だった。

〈シャーマン・アンド・スターリングは深く反省している。シャーマン・アンド・スターリングは利益相反は放棄されたと信じた一方で、自らの行為がイ・アイ・イ インターナショナルに対する実質上利益相反の外観を呈したことを深く後悔している〉

 バブル崩壊後、高橋治則率いるイ・インター社を管理下に置いたメインバンクの旧長銀は、多数の行員を出向させ、リストラに着手した。ここに登場するシャーマン・アンド・スターリング法律事務所は、イ・インター社と委託契約を結んでいたが、その過程で旧長銀の出向者らの命に従い、治則側に不利益となる海外資産の売却などを推進した。先の文章は、それが弁護士にとってのタブーである利益相反行為にあたると暗に認めたことを示している。

 この謝罪文は、イ・インター社が米カリフォルニアで提起した民事訴訟の和解条件の一つとして出されたものだが、敗者復活を期す治則には大きな追い風となった。シャーマン・アンド・スターリング側が旧長銀との共謀を認めたことで、旧長銀の後身である新生銀行に損害賠償請求の訴訟を起こす素地が整ったのだ。

 新生銀行は、一時国有化された旧長銀をリップルウッド・ホールディングスを中心とする投資ファンドが買収し、00年6月に誕生した。公的資金の投入が批判を呼ぶなか、旧長銀の融資先が破綻した場合などに国(預金保険機構)が債権を簿価で買い戻す「瑕疵担保特約」を使い、不良債権の処理を加速させ、念願の再上場まであと一歩のところまで漕ぎ着けていた。イ・インター社との訴訟は、上場後の新生銀行にとってアキレス腱となる可能性を孕んでいた。

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source : 週刊文春 2024年6月13日号