1992年とか1993年頃の話である。大学に入ったのに学校も行かず、毎日雀荘に入り浸っていた私は、麻雀だけでなく競馬にも興味を持つようになった。理由は、本厚木の雀荘で一緒に働いていたおじさんたちが、週末になると競馬新聞を広げてああでもない、こうでもないと競馬予想で盛り上がっていたからだ。

 当時の日本は競馬ブームに沸いていた。私もすぐにハマり、ライスシャワー、レガシーワールド、メジロパーマー、ナイスネイチャ、そんな当時の人気馬たちに夢中になった。トウカイテイオーの有馬記念での復活劇を見たときは、馬券は外れたにもかかわらず、感動で涙した。

 馬券を買うときは、雀荘でみんなで予想し、誰かにお金を預けてWINSに行ってもらった。当時の店長に教えてもらった馬券の格言は、「迷ったら武豊を買え」だ。武豊ジョッキーが乗っている馬はだいたい勝つか上位に来るし、それに逆らえば痛い目に遭った。若くして武豊はスーパースターだった。

 競馬場にも何度も足を運んだ。毎日のように徹夜で麻雀をし、朝になるとそのまま麻雀仲間と本厚木から小田急線に乗り、京王線に乗り換えて府中競馬正門前駅へ。競馬場に着くと、1レースから馬券勝負をするのだけど、寝ていないので芝生で寝たり起きたりしながらだらだらと最終レースまで粘って、お金を全部溶かして帰るのが日常だった。

 とくにGⅠなど大きなレースが開催されている日の帰りは地獄だった。競馬ファンから「オケラ街道」と呼び名がつく駅までの道は大混雑で、牛歩のごとく前に進まず、寝不足でイライラするし、ポケットにはギリギリ電車賃しか残ってない自分が情けなかった。ギャンブルでお金を失い、今月残りを生きていけるのか不安で、田舎に住む親にまた嘘をついて仕送りをせがむのは考えただけで胸が痛んだ。今思い返すと、この頃が自分の人生で最も底辺を彷徨っていた時期だった。

武豊さんとの牛ヒレ肉

 それから時を経ること約30年。私は港区のオークラプレステージタワー41階にある『鉄板焼さざんか』の個室を貸し切って、競馬界のレジェンド武豊と、目の前で焼かれた極上の牛ヒレ肉に舌鼓を打ち、競馬について談笑し、夜景を眺めつつ高級ワインが注がれたグラスを傾けていた。

 30年の間に、私の身にいったい何が起きたらこうなるのであろうか。絵に描いたようなどん底からの逆転劇であり成り上がりストーリーに、“これ、ABEMAのドラマに使えるんじゃないか?”そんなアイデアが自分の頭をよぎったほどである。

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source : 週刊文春 2024年6月13日号