鎌倉時代に曹洞宗を開いた道元禅師は、24歳のとき、禅の本場である中国へ渡っている。このとき、彼は到着した慶元(寧波)の港で、60歳ほどの中国人老僧が日本船の船頭と積み荷のシイタケを買い取る交渉をしているのを目にした。
聞けば、その老僧は名刹、阿育王山の僧侶で典座という食事係を務めているという。明日は5月5日の端午の節供なので、修行僧たちにうどんを振舞ってやろうと思ったが、あいにく出汁に使うシイタケを切らしてしまっていた。そこで、港に日本船が来着しているという話を聞きつけて、わざわざシイタケを買いに来たという。当時の中国では、日本産のシイタケは高級品として珍重されていた。以下は、そのときの道元と老僧との会話である。
道元「いつお寺を出られたのですか?」
老僧「昼食を済ませたあとじゃ」
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source : 週刊文春 2024年8月1日号