【前回のあらすじ】札幌の大学に通うマチは、恋人の浩太の家で狩猟雑誌をたまたま見つけ、手に取る。父は札幌に本社をおく会社の創業者一族で、母はスキーの元オリンピアン。恵まれた環境で育ち、陸上長距離から転向したトレイルランニングも趣味で続けているが、なにか物足りなさを感じていたマチは、それまで見たことのなかった狩猟の世界に惹きつけられる。
「ふう」
午後の講義が終わり、マチはノートと教科書を手早くリュックにしまった。今日はインストラクターのバイトも休みだし、ヒマな旅行サークルの部室に顔を出す用事もない。夕方まるごと自由な時間だ。
マチが椅子から立ちあがろうとすると、隣の席にいた友人、えみりが腰のあたりをつついてきた。
「ねーマチ、今日なんかあるの?」
「ん? なに、どっか行く?」
買い物かお茶にでも誘ってくれるつもりなのだろうか。今日はちょっと都合が、と言おうとしたところで、えみりが「んーん」と首を横に振った。
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source : 週刊文春 2024年9月19日号