「対面したら、温かい布団に寝かせてあげて、『ゆっくり休んで。お祖父ちゃんお祖母ちゃんももう少ししたらそっちに行くから、それまで待っててね』と声をかけてあげたいです」
能登豪雨から10日が経過した10月1日の昼。安否不明者の1人だった石川県輪島市の中学3年生の喜三翼音さん(14)に関する無情な知らせを受け、祖父の誠志さん(63)は、気丈に声を絞り出した。
輪島市から直線で170キロほど離れた福井港の沖合。漁船から「人のようなものが漂流している」と管轄の海上保安署に連絡が入ったのは、9月30日午後4時過ぎのことだった。発見されたのは、身長150センチほどの女性。身に着けていたジャージズボンのタグには手書きで「喜三」と綴られていた――。
9月21日、輪島市の塚田川が氾濫し、翼音さんの自宅を含む4棟の家が押し流されたのは、市の中心部から程近い山間の久手川地区。約7年前に翼音さんの父親の鷹也さん(42)が購入した戸建てから200メートルほど川下には、輪島塗の蒔絵職人である誠志さんの自宅兼工房があった。
翼音さんの捜索が続いていた9月28日。誠志さんは孫娘への思いを小誌に明かしてくれていた。
「翼音は大事な初孫。小さい頃は私の家で一緒に暮らしていて、輪島朝市にもよく遊びに来とりました。中学に上がってから『ちょっと朝市の仕事も手伝ってくれるか』と頼んだら、翼音は『いいよ』と言って、土日や連休で来れる時は、朝市のお店を手伝ってくれるようになったんです」
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source : 週刊文春 2024年10月10日号