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連載春日太一の木曜邦画劇場

春日 太一
2017/01/31

ドラマを丁寧に描き込みアクション場面で爆発!

『将軍家光の乱心 激突』を千葉真一が熱く語った

 映画好きが高じて今の仕事をしている身としては、学生時代に憧れていた役者と仕事させていただく機会に恵まれていることは、大きな役得だ。

 千葉真一も、そんな一人。

1989年作品(111分)
東映
4500円(税抜)
レンタルあり

 中学時代、テレビ東京の昼に再放送していた千葉主演のテレビ時代劇「影の軍団」シリーズを観たくて学校をサボっていたほど、好きな役者だ。そんな千葉とは、毎年数回のペースでトークイベントをさせていただいていて、往年の裏話を聞いていると、仕事なのを忘れてしまいそうになる。

 今回取り上げる『将軍家光の乱心 激突』についても、千葉は裏側を熱く語ってくれ

 舞台は江戸初期。病のために乱心した将軍家光(京本政樹)は、まだ幼い世継の竹千代の殺害を命じる。それを察知した老中・堀田(丹波哲郎)は刑部(ぎようぶ/緒形拳)ら凄腕の浪人たちに竹千代の警護を依頼する。逃亡を続ける一行の前には、伊庭(千葉)率いる幕府の暗殺軍団が立ちはだかる。

 本作の最大の注目は千葉が自らアクション監督を務めていることだ。千葉の次々と繰り出す奇想天外のアクションシーンの構想を、千葉率いるJAC(ジャパンアクションクラブ)による命がけのスタントが実現していった。

 断崖絶壁から川への落下、橋が爆発して人馬もろとも川へ転落、峡谷を隔てた崖から崖への綱渡り、人も馬も本当に燃えながらの火中突破――。

 これらのシーンがいかにして撮られていたのか。その凄まじい現場の様子については今後も開催される予定のイベントでぜひ直接聞いてほしいが、一つだけお伝えしたいことがある。アクションの派手さにばかり目が行きがちだが、千葉がこだわったのは、そこだけではないという点だ。

 アクションには必然性がなければならない。ただ派手に無茶をすればいいというものではない。「なぜそうまでするのか」が伝わらない、物語のドラマ性から浮いたアクションは「ただの見せ物」に過ぎず、いくらそこだけ力を入れたとしても観客は飽きる。あくまでドラマの延長線上にアクションはある――。千葉はそんな信念も語ってくれた。

 実際、その視点で本作を観てみると、気づくことがある。

 幕府軍の強大さと、彼らから竹千代を守ろうとする刑部たちの想い。この二点が丁寧に描かれているのだ。だからこそ主人公たちの戦いに感情移入ができ、命がけのアクションが「決死の覚悟の逃亡劇」としてドラマ的必然性あるものになる。その結果、手に汗握る緊迫感とカタルシスが生まれた。そこが疎かだと「凄いことをやっているなあ」という他人事で終わってしまう。

 楽しいだけでなく、勉強にもなる。本当に役得な仕事だ。

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