今回取り上げるのは、『修羅雪姫』。「さそり」シリーズと並ぶ、梶芽衣子の代表作だ。
梶といえば、クールビューティ。強大な敵たちを相手に壮絶な戦いに臨む際にも、決して表情を大きく変えることはなく、いつも冷たい、射るような眼差しで迫る。そして、冷たさの奥から伝わる強烈な激情も相まって、他を寄せ付けない迫力が放たれていく。
本作も、そんな梶の魅力が映し出されている一本だ。
舞台は文明開化期の明治。ヒロインの修羅雪(梶)は非業の最期を遂げた母の怨みを晴らすことだけを胸に、蛇の目傘に仕込んだドスで仇たちを次々と殺していく。
冒頭から、激しい立ち回りが展開されている。表情一つ変えることなくヤクザたちを斬りまくり、白い雪景色を鮮血に染めるのだ。トドメを刺す時の、相手を見下す梶の鋭い眼差しの冷たい殺気からは、彼女の怨みの強さを早くも感じとれた。その姿は、「そなたは修羅の子。俗界の人間ではない。修羅の道に進む魔性、人たる姿を借りた鬼畜外道じゃ。御仏も見放したるほどのな」という師・道海(西村晃)の物凄い字面のセリフにすら、十分な説得力を与えるほどであった。まさに情念の化身だ。
そんな修羅雪だから、その後の仇の殺し方も容赦がない。
老いさらばえて献身的な娘と貧しい暮らしを送る仇の一人(仲谷昇)が「娘のために!」と土下座して命乞いをするも、見事に一刀両断。敵のアジトに潜入した際は、待ち構える近衛兵たちをメッタ斬りにして、血しぶきで白い和装を真っ赤にしていった。
いずれの際も梶の目はクールなまま、決して揺らぐことはなかった。が、最後になって初めて、それが崩れる。
雪の鹿鳴館で最後の仇(岡田英次)を討ち、本懐を遂げた修羅雪は傷つき、外を歩きながら倒れ込む。雪の中に顔を埋め、泣き叫ぶ修羅雪。この時、梶の目から感情が露になるのだ。冷たい雪との対比が、ようやく解き放つことのできたその目の感情を熱く強調し、観る側の心を打つ。
先日、月刊『オール讀物』とNHKラジオの番組で、梶に立て続けにインタビューさせていただく機会を得た。何せ、一つ間違うとあの冷たい眼差しに睨まれて終わってしまうのではないか――。そんな恐れを抱きつつ対峙したのだが、結果は違った。たえず柔和な表情を浮かべながら、旺盛なトークを披露してくれたのだ。ホットな人だった。
当人とスクリーンの中の人物は別人――そんな当たり前のことを思わず忘れてしまうほど、彼女は全く異なる人格を見事に往来してのけていたのだ。役者の凄味を、改めて思い知らせてもらえた。