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【日本ハム】最下位低迷も、ワカゾーの石井一成がいるから面白い

文春野球コラム ペナントレース2017

 ファイターズは故障者続出で、最下位に沈んでいる。本拠地札幌のソフトバンク戦で今季初めて勝ち越したと思ったら、仙台で楽天に3タテを食らった。リーグ10勝一番乗りの好調楽天(4月17日現在、12試合10勝2敗)と対照的なチーム状況だ。15試合4勝11敗(同日現在)は12球団中、10敗一番乗りである。大谷翔平、中田翔抜きの「飛車角落ち打線」はタイムリー欠乏症に陥っていて、さっぱりつながらない。得点は主にソロホームランで、ランナーが出ると大体、ゲッツーに終わる。見ていてフラストレーションがたまる。これでも昨シーズンのチャンピオンチームかと情けなくなる。

 というのが表向きの話だ。

 けっこう楽しんでるよ、毎日野球のある生活。楽天に3タテ食らったと言っても、2対3、2対4、3対4だ。すべて接戦。もちろん「接戦を勝ち切る」には点差以上の力量差が必要だから、あくまで楽天は強くハムは弱い。松井裕樹は3連投で1勝2セーブだ。最終的にはグウの音も出ない負け方をした。といって3戦とも勝つチャンスがなかったわけではない。「3番近藤健介、4番レアード、5番田中賢介」でよく戦っている。もう少しヒットが出れば細工のしようもあるんだけどな。

負けが込んでるからこそワカゾーが出てくる

 今日は石井一成のことを書く。なぜ負けが込んでるチームを僕が楽しみに見ているか。それは石井一成のようなワカゾーが出てきたせいだ。故障者続出のチーム事情というのは、言い換えるとワカゾーにとって大チャンスだ。そもそもファイターズは開幕戦スタメンの平均年齢が12球団で最も若い構成なのだが、「飛車角落ち打線」が定着してからはハンパない。吉田侑樹、石川直也が投げ、清水優心が捕り、森本龍弥や横尾俊建、森山恵佑が打つ。戦力万全ならなかなか出て来れなかった顔ぶれじゃないか。

 何人かはイースタンリーグで腕を磨くべき時期だったかもしれない。が、チャンスはチャンスだ。これをモノにすればプロで食べていける。今のファイターズはそんなワカゾーが必死に1軍に食らいつく姿が見られるのだ。そのトップランナーがルーキー、石井一成だ。

 笑ったのはこの原稿を書くためにYahoo!検索してみたのだが、「石井一な」まで打ったら、検索候補に「石井一成り」「石井一成る」がパッと出たことだ。沢山のファンが石井に関心を持ち、名前を入れようとした痕跡が残っている。早くガイド機能とかで「石井一成」がスッと出るくらい出世してもらいたい。栃木県那賀郡の出身、作新学院→早大と学生野球の名門を歩んだ。2016年ドラフト2位の内野手だ。強肩、堅守に定評を持つ。

「石井一な」の検索候補 ©えのきどいちろう

 そのポテンシャルはアリゾナキャンプの最初から評判になっていた。ゴロに合わせる動きが柔らかく、センスを感じさせた。守備練習を一目見た栗山英樹監督が「久しぶりに惚れ惚れした」とコメントする。しかも本人のアピールポイントが「スローイング」だ。なかなかそんなこと言うルーキーはいない。「守備は即戦力」が衆議一致した見方だった。問題はバッティングが「(早大1年上の)茂木栄五郎より上か下か」だ。

石井一成には挑戦する権利がある

 右投げ左打ちがひっかかるところだった。ファイターズには田中賢介、西川遥輝、近藤健介、谷口雄也、岸里亮佑、淺間大基、平沼翔太と右投げ左打ちがゴロゴロいる。同タイプは何人もいらない。このメンバーのなかにあって埋もれない何かを見せられるか。紅白戦、練習試合、オープン戦と日程が進み、石井には「西川遥輝のスイングスピード」も「近藤健介の軸のブレなさ」もないことがハッキリした。フリー打撃を見てもパワーは感じない。

 が、石井は「打てる内野手」だった。オープン戦後半のプロの球にもしっかり対応した。チームの新人でただ一人、開幕1軍を勝ち取ったのは順当といえる。石井の打席は面白いのだ。自分の持ち合わせた技術のなかで何ができるか考えている。一線級の投手を相手にするとほぼ手も足も出ないのだ。が、出ないなりに何か考えてる。フツー、新人は「思い切り振る」みたいなものしか見えて来ないものだ。何とかしようとしてる新人は目立つ。

開幕から存在感を発揮しているドラフト2位ルーキーの石井一成 ©時事通信社

 開幕後、もたついたチームのなかでチャンスをつかんだ。そもそも飯山裕志が万全だったら開幕1軍スレスレだったかもしれない。開幕後は田中賢介の守備がおかしくなった。二塁手スタメンで出番をもらう。中田翔が内転筋の挫傷で戦線離脱してからは、賢介がファーストにまわった。チーム成績は火の車だが、石井一成はプロの世界で毎日勝負している。しびれる毎日だ。かつて夢見た世界で野球をしている。

 ここまでのハイライトは14日、楽天1回戦の2回表、二死走者なしから放ったプロ入り初ホームランだろう。投手は釜田佳直、カウント3-1からのアウトコースの直球だ。逆らわず払った打球は高々と上がり風に乗る。レフトフェンスぎりぎりに入った。釜田が振り返って嫌な顔をしていた。石井は2塁ベースを回ったところで足を緩め、本当にあれが入っちゃったのかという感じでレフトフェンスの向こうを見ている。

 もちろんその試合、ファイターズは負けているから石井はヒーローではない。ヒーローではないが、僕は決して忘れない。石井は面白い選手で、守備も打撃もぜんぜん難しいことをしてるように見えない。フツーに守ってアウトを取り、フツーに打てる球だけ打ってるように見える。その延長戦上に初ホームランがあった。気がつくと打率は3割4分3厘(同じく4月17日現在)残っている。茂木栄五郎のパンチ力はないが、しっかり持ち味は出せている。

 ファイターズは競り負けて、11敗目を喫したところだ。ひとつ勝つのがこんなに大変だとは思わなかった。だけど、僕らはこの負けを覚えておこう。この負けのなかからワカゾーが何人も出てくる。ワカゾーはまだ力がないから劇的に状況は変えられない。必死に食らいつくだけだ。僕らはその姿を覚えておこう。ワカゾーには失敗する権利がある。ワカゾーには挑戦する権利がある。

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※「文春野球コラム ペナントレース2017」実施中。この企画は、12人の執筆者がひいきの球団を担当し、野球コラムで戦うペナントレースです。

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