開幕シリーズの西武3連戦が終わった。札幌ドームは連日、大盛況だ。北海道のファンにとって、プロ野球開幕は春の訪れを告げる二重の喜びだ。長かった厳寒の季節が終わり、町の景色が変化し始める。といって花見はGW頃まで待たなきゃいけない。僕が子ども時代に暮らした釧路市はこの時期、コチンコチンに凍っていた校庭の土がぬかるんで運動靴で跡がつけられた。嬉しくて足跡をつけてまわった。本当に、本当に春は嬉しい。

今季の西武は厄介な相手になりそうだ

 僕は「1勝2敗の西武3連戦」のなかで、やっぱり開幕戦にこだわりたい。1対8で敗れた試合だ。有原航平が5回2/3で6失点。当方は市川友也のソロホームラン1本だ。西武の新エース、菊池雄星に見事に抑え込まれた。菊池はまっすぐが切れてる上、新球種のフォークを使ってきた。有原がもっと持ちこたえていても、勝つのは難しかったと思う。チームのスコアラーが菊池をどう解析し、今シーズンどう攻略していくのか楽しみになった。

 試合評は大体、どの解説者、評論家も「辻野球で守り勝った西武、守乱で自滅したハム」というトーンだったように思う。これは衝撃的だった。去年、12球団最多の失策数101を記録し、「エラーの西武」といわれた守備が一変している。象徴的には開幕戦3回裏2死一塁の場面だ。大谷翔平のライト線二塁打で、長駆ホームを突いた走者・西川遥輝を本塁タッチアウトに切って取った。「木村文-浅村-炭谷」の最高の中継プレー。

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 この瞬間、おお、オレの愛する野球が始まったとビリビリしびれた。だって全員すごいのだ。大谷に内角攻めを徹底した菊池雄星がすごい。それを2打席目の初球ではじき返す大谷がすごい。走者・西川のベースランニング、加速がすごい。フィールドでは木村文紀のクッションボール処理の間に野手がいっせいに動きだす。中継へ。カバーへ。野球で最も美しい光景のひとつだ。歓声とどよめきのなか、僕らは野手と走者と三塁コーチを忙しく目で追う。心臓が高鳴る。中継プレー、特に浅村栄斗の送球が素晴らしい。一塁手、メヒアが身体を伏せる。それを炭谷銀二朗がストライク捕球だ。すり抜けようとした西川の手にタッチした。主審の見せ場。ドラマチックにアウト宣告だ。

 僕は東京時代からのファイターズファンだから「強い西武」に恐怖感がある。こてんぱんにやられ続けてきたのだ。できるなら眠れる獅子でいてほしい。守備なんか気にしないでブンブン振り回してほしい。それがどうやら辻発彦・新監督の下、変わってしまったらしい。遊撃手スタメンの社会人ルーキー、源田壮亮が素晴らしい。今年の西武は厄介だなぁ。

開幕戦で見せた栗山監督の「施政方針演説」

 この日、ファイターズはサウスポーの菊池に対し、自信をもって左を並べた。1番・西川、2番・田中賢介、3番・大谷、5番・近藤健介、それから9番・中島卓也。打線のポイントの部分は全部左だ。そしてオープン戦好調の横尾俊建や石井一成はベンチスタートだった。僕は開幕戦というのは、監督さんの「施政方針演説」だと思う。オレたち、こういう世界観で野球をやります。柱になるのはこの選手たちです。チームは生きものだからこの先変更はあり得るにせよ、今はこの形でブレません。目先の勝ち負けより大事なものがあります。という感じ。

日本一連覇を狙う栗山英樹監督 ©文藝春秋

 2番・田中賢介が渋い。「つなぐ野球」も「打ち勝つ野球」も両方視野に入ってる。この賢介のキャスティングに近いのは(つまり代役をハメるとしたら)、中島ではなく石井一成に思える。それから岡大海は調整が遅れてるけど外さないんだなと思った。センターにはこのタイプが必要なのだ。面白いことにファイターズは(サウスポーの菊池に対し)右打者が軒並み不調だった。中田翔、レアードはWBCで疲れたか。岡はセンスだけでどうにか合わせている。見た感じ、しばらくかかりそうだ。が、チームの骨格は変えない。ガマンして、エンジン点火を待つ。

 だから1対8の試合を見せられ、「何でもっと早く有原を引っ込めない?」「何で打てない中田、レアードに代打を使わない?」と開幕から怒髪天を衝いたファンがおられたかもしれないが、そこは納得してもらいたい。ファイターズは有原を主戦で回し、中田、レアードが一発を決めるチームだ。栗山英樹監督の「施政方針演説」だ。ちょこまか動かすわけにいかない。

 2017年は負けから始まった。思えば去年も連敗スタートだった。しばらくは低空飛行が続くだろう。まぁ、11.5差をはね返したりすると、ついスロースターターになるのかもしれない。「エラー」と「Eがつかないエラー」が気になる。開幕シリーズは全体にふわっとしていて、散漫な印象だった。ひとり大谷が三冠王を獲りそうな勢いで気を吐いている。野球が身体にみなぎっている。WBCを見てじっとしてられなかった感じなのか。

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※「文春野球コラム ペナントレース2017」実施中。この企画は、12人の執筆者がひいきの球団を担当し、野球コラムで戦うペナントレースです。