超がつくほどのホワイト企業

 街頭の桜が少しずつ緑に染まり始めるこの季節。ビジネスバッグを片手に彼らが改札を抜ける姿もさまになってきたようだ。真新しかったスーツもこころなしか着こなせてきたように映る。この4月から働き始めた新入社員達だろうか。仲間達の会話を遮るように一人の青年が放った言葉が電車内の視線を一手に集める。「うちの会社、実はブラックかもしれへんで!」

 ビジネスキャリアの長い先輩方なら思わないような事でも、彼らはブラックな環境と感じるようだ。「基本、残業はアカンみたい。どうやって仕事終わらすねん。無理ゲーやで!」。何とも可愛らしい会話だ。

 ここ数年、一気に口にされるようになったこのブラック企業・ホワイト企業という名称。何をもって我々はそう表現するのだろうか。具体的な定義は確立されていない現状ではあるが、思うに「対価」の問題なのではないだろうか。賃金が低くとも仕事量が少ない企業をブラックとは呼ばないし、また賃金が高くともプライベートも無いような業務量ではブラック扱いされるのかもしれない。

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 では、プロ野球チームに置き換えた場合、我らのORIX Buffaloesは果たしてどうなのだろうか。親会社はビジネスにシビアだと頻繁に耳にする。結論から先に言おう。ORIX Buffaloesは「超がつくほどのホワイト企業」なのだ。

©MEGASTOPPER DOMI

Bsの年俸総額は2016年で約33.3億円、2015年で37.5億円

 最初に断っておくが、ここでいうORIX Buffaloesとは選手のみに絞った話だと思って頂きたい。フロントやチーム首脳陣、球団職員やイベントクルーは除外して考えるものとする。

「対価」の話をしているから、まずは「 価」の部分、つまり選手の年俸総額から見て行きたいと思う。ご存知の通りプロ野球選手の年俸は「推定年俸」である。あくまで推定であるがBsの年俸総額は2016年で約33.3億円、2015年で37.5億円と言われており、これは12球団中2016年で4位、2015年は3位の金額である。

 一方「対」の部分はどうであろうか。「対」の部分は仕事量を加味して数字を出す必要がある。しかし、プロ野球選手という特殊な職業の話ではピンとこない方も多いだろうから、ここではあえて「Bs工務店」と仮定して仕事の話を進めてみたいと思う。

 プロ野球選手の仕事は勝利する事であるが、工務店の仕事は家を建てる事である。「1勝」を「家を1軒建てた」ものとして換算しよう。また少しでもリアルに感じて貰えるよう業務を大別して、注文を取ってくる「営業さん」と実際に家を建てる「大工さん」とに分けて考える事にする。投手部門を「営業さん」、野手部門を「大工さん」と考えて欲しい。年俸総額分の人件費を計上して年間何軒の家を建てたのか。年俸総額の勝利数割りではありきたりなので、ここではひとつの指標をもとに考えてみたいと思う。

 WAR。Wins Above Replacementの略で、「そのポジションの代替可能選手(Replacement)と比較して、どれだけ勝利数を上積みしたか」を表す野球指標である。つまり「普通の人よりどれくらい仕事をしたか」を見て行きたいと思うのだ。

WAR12球団最下位からの脱却

 2016年Bs投手陣のWARは「+14.3」。Bsの「営業さん」は代替可能社員が仕事をするより、年間で14軒程多くの家を建てた計算になる。打者WARは「+11.4」。同じく「大工さん」で代替可能社員より11軒程多くの家を建てた事になる計算だ。「営業さん」と「大工さん」で合計25 軒。代替可能社員が仕事をするより25 軒多くの家を建てる為に、人件費として約33.3億円を計上している事になる。1軒当たり約1億3000万円の人的コストを使っている計算だ。ちなみに2016年BsのこのWAR値は12球団最下位。「Bs工務店」は人件費は12社中4位の金額を計上しているのに、建てた家の軒数は一番少ないのだ。言わば給料はそこそこ高く、仕事量は圧倒的に少ない事になる。ホワイト企業だ……。我々ファンにはたまらない話ではあるが、まさにホワイト企業だ……。

 他社の場合はどうだろうか。例えば年俸総額が12球団で最も高額な「ソフトバンクハウジング」。2016年の年俸総額は約53.3億円、WAR値は「営業さん」が29.2軒で「大工さん」が21.2軒。「ソフトバンクハウジング」は1軒当たり約1億500万円の人的コストで家を建てている計算になる。逆に年俸総額が12球団で最も低い「DeNAホーム」は、19.5億円のコストで23軒の家を建てているので、1軒当たりのコストは8400万円に留まっている。

「広島組」に至っては4300万円の人的コストで1軒の家を建てる。しかも、この年の「広島組」には伝説の営業マン・黒田博樹部長が高年俸で在籍していた為、黒田部長の人件費を計上しなければ更に大幅にコストが下がる。2016年「広島組」のコストパフォーマンスはここ数年の12球団の中でも飛び抜けて高く、ここまでくるとややブラックな企業の勇敢な企業戦士達のように思ってしまうが、これはきっと風評被害だ。

 どうだろう。ひとつの成果にふんだんに人的コストを使うORIX Buffaloes。他社と比較しても「超がつくほどホワイト企業」と言えるのではないだろうか。もし、これを見ている野球少年が居るならば「Bs工務店」への入社を強くお薦めするが……。

 しかし、勝負の世界ではホワイト企業が必ずしも優秀とは言えない訳で。2017年に関しては無駄な経費を削減し、且つ効率化を図り、同じコストで1軒でも多くの家を建てて欲しいと切に願っているのは言うまでもない。まずはWAR12球団最下位からの脱却を図るべし!

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※「文春野球コラム ペナントレース2017」実施中。この企画は、12人の執筆者がひいきの球団を担当し、野球コラムで戦うペナントレースです。

対戦中:VS 北海道日本ハムファイターズ(えのきどいちろう)

※対戦とは同時刻に記事をアップして24時間でのHIT数を競うものです。