試合運びを含む球場全体のテンポ
球春到来と言えど開幕直後のナイトゲームはまだまだ肌寒い。重ねて午前からの降り止まぬ雨が開幕ムードに水を差す。我々が待ちに待った本拠地開幕戦は「晴れ晴れとした明るい太陽が栄光の未来を照らし出す」、そんな光景とは程遠いものとなってしまった。
防御率3.60、打者27人、与四球5、失点4。
Bsファンの思いをその右肩に背負った絶対エース金子千尋は、5回降板と志半ばで京セラドームのマウンドを後にした。翌2戦目のフィル・コークの乱調、3戦目は守護神平野佳寿の被弾という負の連鎖でまさかの開幕3連敗。最下位からの逆襲を誓うこのチームは更なる試練に晒される事となってしまった。「ペゲーロが神っている」のか、楽天担当のコラムニストが「神じょうたけし」なのか。笑えない冗談はさて置いて、野球の神はどこまでも我々Bsに試練を与え続ける。
しかし、何とか次の一手を打って早急に上位争いに参加しなければならない。且つ2016シーズンで30勝40敗2分、今シーズンも既に3連敗と、過去から課題とされているホームゲームの勝率をそろそろ大幅に改善しなければならないのだ。悲観して待つだけという訳にはいかないのである。
では、ホームゲームの勝率を上げるには何が必要なのだろうか。色々とあるだろうが自分は「試合運びを含む球場全体のテンポアップ」が必要であると言いたい。それ程この3連戦の試合のテンポは悪く、その試合時間の長さと相まってスタンドを埋めたファンのイライラを増長させるものであった。
ならば、そもそもテンポとは何か。これを機に少しテンポについて根本から考えてみたいと思う。最終的に「試合運びを含む球場全体のテンポアップ」を図る為に。
身体や精神が躍動しやすいテンポが存在する
我々音楽家はこのテンポの事を「BPM」と表現する。「BPM」すなわち速度の事で、BPM:60とは1分間に四分音符を60回刻む速度である。つまり1秒の長さと1拍の長さが同じで分速60拍となる。BPM:100ならば分速100拍。勿論、BPMの数値が上がればテンポは速くなって行く。
実はこの「BPM」、人間のアクションとも密接に関係しているのだ。例えば成人の平均的な歩行速度はBPM:100~110程度と言われており、マラソンであればそれがBPM:150~175程度となる。ウォーキングに適した曲、ランニングに適した曲、諸々と各シーンに適した音楽が存在するが、それは各シーンに於いて「身体や精神が躍動しやすいBPM」が存在するからである。
バッターボックスに向かう選手の気分を盛り上げる「選手登場曲」を例にとって考えてみよう。Bsファンなら誰もが知るT-岡田選手の登場曲「カーニバル」はBPM:150、伊藤光選手の「光り」はBPM:156。両曲とも会場全体の雰囲気を盛り上げるのに大いに貢献しているのだが、マラソン程度の駆け足テンポであるから、我々の心がワクワクと躍動するのも頷ける。
安達了一選手の「CLAP ADACHI!!」はBPM:124、実は球団歌「SKY」もBPM:128とこちらも歩く速度よりかなり速い。駿太選手の「CAN’T STOP THE FEELING!」は少し遅めの曲でBPM:114、歩く速度とほぼ同じである。手拍子がしやすい。タオルが振りやすい。何かワクワクする。テンションが上がる。全て登場曲の「BPM」に大きく起因しているのだ。
BPMを制す者は人の感情を制す
上記は一例であり、選手登場曲のテンポをいくら考察したところで試合自体のテンポとは何の関係も無いのかもしれない。しかし球場の演出手法で「球場全体のテンポ」を上手くコントロールする事が出来れば、結果的に試合の流れすら上手くコントロール出来るようになると思うのだ。それがホームチームのアドバンテージなのではないだろうか。
近年、観客動員も増え満員になる事も多くなった京セラドーム大阪。盛り上がった展開の時にはそれを後押しするテンポの曲を、落ち着きたい時はゆっくり目のテンポの曲を、会場の雰囲気を上手く味方に付けチームの後押しが出来れば、自ずとホームゲームの勝率も大幅に改善されるだろう。BPMを制す者は音楽のみならず、人間の感情を制すのである。
いずれにせよ長いペナントレースの中のまだまだたったの3試合。今から絶望視するのはあまりにも悲観的過ぎる。少し懐かしい2009年。その年の両リーグ覇者は巨人と日ハム。両チームとも開幕3連敗からの船出であった。2008年も巨人は開幕3連敗スタートからセ・リーグ覇者に輝いている。開幕3連敗から優勝を目指すのも決して前例の無い話ではないのだ。
まずはブランドン・ディクソン投手を中心とした裏ローテーションからワンカードずつ勝ち越しを続け、カードが一巡する頃には勝率5割への到達を期待しよう。巻き返しへの飛躍的なテンポアップこそ我々Bsの最重要課題である。
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※「文春野球コラム ペナントレース2017」実施中。この企画は、12人の執筆者がひいきの球団を担当し、野球コラムで戦うペナントレースです。