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吉田類「気が付いたら映画主演で、主題歌まで歌ってました」

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「酒呑みたちの月9」、「おれたちの月9」――。月曜夜9時のテレビを、酒呑みやお父さんたちの時間に変えたのは吉田類さん。BS-TBSで14年続く『吉田類の酒場放浪記』は、吉田さんを案内役に町から町へ大衆酒場を放浪しながら、居合わせたお客さんともひと時を愉しむ番組だ。その吉田さんが映画で初主演を果たしたという。

「この映画は3話オムニバスの構成なので、僕のところには話と話を繋ぐストーリーテラーとして出演依頼がありました。ところが気が付くと役があてられていて主題歌まで歌うことに。監督は始めからそのつもりだったんです。まぁ、最後は僕が一番楽しんでいたんですけどね(笑)」

 酒場に集う客、そして注がれた酒の数だけ生まれる小さなドラマ。1軒で1話、すぐそばにありそうな、3つの人生を映し出していく。

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「高知の山奥の生まれなんですが、子供のころから映画が好きで町の映画館によく行ってたんです。映画って、日常とは違う世界に連れて行ってくれるでしょう? 酒場も同じ。店の中で誰もが観客にも主人公にもなる。日常ではまずないような出会いがあって、そこから人生を学ぶ場所にもなるんです」

 もともと画家を志していたという吉田さん。20代の殆どをヨーロッパで過ごし、食事は外食で当然酒も飲む。帰国後もその生活は変わらないなか、30年ほど前から大衆酒場に惹かれるようになった。

「東京の下町に多い大衆酒場が面白くって。外国の酒場にはない、店の中では皆が対等な独特の飲酒文化を感じました。それで下町の東陽町に14年くらい住みながら飲み歩いたんです。すると、古くは江戸時代に江戸市中の6割を焼いた『明暦の大火』後の復興で集まった建設労働者のため、そして戦後は高度成長期に東北や北関東からの出稼ぎ労働者が東京に集まったことで外食産業が盛んになったことが分かったんです。単身赴任の彼らにとって、大衆酒場は食卓でもあったんですよ」

©2017『吉田類の「今宵、ほろ酔い酒場で」』製作委員会

 吉田さんが映画で演じる男も、フラリと酒場に辿りつく。

「僕は投資会社社長で、巨額詐欺事件の容疑者なんです。追い込まれている役だからダイエットしてやつれようと思ったんですが、なにせ食べて飲む仕事ばかりで全然痩せない(笑)。休肝日はないのかよく訊かれるんですけど、ビール中ジョッキ3杯までは飲んだうちに入らないからそれが休肝日。つまりほぼ毎晩飲んでます。僕は酒縁(しゅえん)と言ってますけど、お酒の席でのご縁が全国の人と繋がって、絵描きだった男がいつのまにか酒場詩人なんて呼んでもらって。そして映画の主演でしょ。漂泊の人生ですけど、それが酒場から生まれたご縁だと考えると、不思議なものですよ」  

よしだるい/1949年高知県生まれ。エッセイスト、俳人としても活躍。シュールアートの画家としてパリを拠点に活動し、90年代半ばから旅や酒場をテーマに執筆活動を始め、現在連載多数。BS-TBSで毎週月曜日夜9時から放送中の「吉田類の酒場放浪記」は14年の長寿番組となっている。

INFORMATION

映画『吉田類の「今宵、ほろ酔い酒場で」』
全国で公開中
http://horoyoi-sakaba.jp/

吉田類「気が付いたら映画主演で、主題歌まで歌ってました」

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