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いつも自分は奇妙な二人組に興味があると気づいた。そこから生まれたおちゃめな双子の物語。──「作家と90分」青山七恵(前篇)

話題の作家に瀧井朝世さんがみっちりインタビュー

2017/07/01

genre : エンタメ, 読書

note

「おちゃめなふたご」の田村セツコさんに描いていただいた挿絵を子ども時代の自分に見せたい

――ところで、ママが映画の『ロッキー』シリーズが好きで、鑑賞しては泣いていますよね。青山さんご自身もお好きなんですか。

青山 ここまでしつこくは観ませんが、好きです。ロッキーって本当に弱い人間で、周りに支えてくれる人がいないとぜんぜん戦えないんです。そういうところがダメだなあと思いながらもつい肩入れしてしまいます。『ロッキー2』がいちばん好きなんですが、なかでも好きなのが、トレーニングのシーン。前作だとまだ有名になっていないからひとりで街中を走っているんですけれど、「2」になると、一回アポロと闘って有名になっているので、走っていると近所の子どもたちがどんどんついてくるんですよ。最後にはフィラデルフィア中の子どもたちが集まっているんじゃないかというほど、大集団でぞろぞろ走っている。その画がいかにも無茶苦茶で、ありえないんだけど、最後に階段をみんなでガーッと上っていくところはもう号泣です(笑)。

 それと、ママも好きだと言っている、『ロッキー・ザ・ファイナル』のエンドクレジットで、ロッキーファンの人たちがロッキーの真似をして階段を駆け上がってうわーっとはしゃいでいる様子が映るのは、フィクションの作り手としてはぐっときます。ロッキーは監督とか脚本家の頭の中で作り上げられた架空の存在なのに、こんなにたくさんの肉体に階段を駆け上がらせるほどのポジティブなエネルギーを与えるんだと思うと、なんかすごく感動しちゃうんです。ロッキーがいなければ、誰も階段なんか駆け上がらないですよね(笑)。

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――今回は、『おちゃめなふたご』だったり穂高のおうちだったり、『長くつ下のピッピ』だったり『ロッキー』だったりと、青山さんの好きなものが詰めこまれている。

青山 そうですね。『おちゃめなふたご』を読んだ当時は、寄宿舎に少女たちが住んで、真夜中にパーティをしたり、アンチョビと靴磨きペーストを間違えるとか、細かいところに興奮していました。今思うと、女の子たちが誰のためでもなく、自分たちのために楽しくワイワイしている感じがたまらなかったんでしょうね。それと、共同生活の中で誰かに悪いことをしたという自覚がある子は必ず反省して、謝罪するシーンがある。内省についての教育もしてくれたと思います。海外、特にイギリスへの憧れはこの本で強く植え付けられました。つまり今の私が日常生活でも、小説の中でも、自然と惹かれてしまうものが全部ここにあったんだと思いますね。

©榎本麻美/文藝春秋

――そして今回、挿絵は『おちゃめなふたご』の翻訳版も描かれた田村セツコさんなんですよね。まだまだお元気だということが嬉しくもあり。

青山 私のほうから、ダメモトで田村さんにお願いしてみたいとリクエストしました。田村さんが引き受けてくださって、本当に嬉しかったです。この挿絵を子ども時代の自分に見せて自慢したいです(笑)。文章を書いたのは自分ですけれど、でもこの本じたいはプレゼントしてもらったような気がして幸せです。

 打ち合わせもかねて何度か田村さんにお会いしたんですけれど、とっても可愛らしい方で、お言葉も軽やかなんだけれども重みがあって。田村さんは何十年もずっと同じお仕事をされてきたので、この先ずっと書き続けることについて、私が不安に思っていることを質問した時に、すっごく素敵な答えをくださったんです。忘れられないです。

――どういうお答えだったのかは……。

青山 秘密です(笑)。心の中に大事にとっておきます。