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小島 秀夫
2017/07/23

小島秀夫が観た『ラ・ラ・ランド』

ラ・ラ・ランドはハリウッドの夢を見るのか?

genre : エンタメ, 映画

「私たちは何者なんでしょう。ハリウッドとはそもそも何なんでしょう。いろんなところから来た人たちの集まりでしかありません」

 2017年の第74回ゴールデン・グローブ賞において、セシル・B・デミル賞を受賞したメリル・ストリープは、受賞スピーチでそう語った。

「ハリウッドにはよそ者と外国人がそこらじゅうにいるんです。その人たちを追い出したら、あとは、アメフトと総合格闘技(マーシャルアーツ)くらいしか見るものはないですが、それは芸術(アーツ)ではありません」

 そう言って彼女は、芸術の力――映画の力によって、現実にふるわれている暴力に対抗することの重要さを訴えた。

 映画の力とはなんだろう、夢見る力とはなんだろう。『ラ・ラ・ランド』に、私はその答えを見つけた。

© 2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved. Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND.Photo courtesy of Lionsgate.

過去にも現在にも存在しない、夢の国「LA LA LAND」

 見慣れたはずの、色あせた現実のLAのハイウェイでの、圧巻としか言いようのないミュージカルシーンで、映画は始まる。巨大なスクリーンは、多幸感に満ちた音楽(しかしどこか陰を感じさせる歌詞)と、様々な色彩の奔流に満たされて、一瞬にして現実を忘れ、夢の世界に連れ去られる。すでに私はこの映画の魔法にかかっていた。

 現代のハリウッド映画では、めったに見ることのできなくなったシーンだ。

『巴里のアメリカ人』『雨に唄えば』『バンド・ワゴン』など、第2次世界大戦後に黄金期を迎えたハリウッドのミュージカル映画を思わせるカラフルで壮大なシーンが、21世紀の「新作映画」として、「古き良き」ハリウッド映画への懐古ではなく、現在の映画として私たちの眼の前で繰り広げられる。

 まさに曲のタイトルが示すように「Another Day of Sun」として、この映画は始まるのだ。

 だからこの映画の舞台は、現代の現実のLAではなく、古き良きLAでもなく、もうひとつのLA――映画の夢とアメリカの夢が生きている「夢の国」なのだ。私たちは、動き出した車とともに、現実のLAから、夢のLA LA LANDに降りていく。