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「犬に一部を食べられた」遺体――独身派遣OLはなぜ孤独死を迎えたのか

『家族遺棄社会』 #1

2020/08/12
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人は寂しさの行き場を求める

 上東は語る。

「犬たちは亡くなった飼い主が起き上がり、いつもの日常が戻ることを待っていたと思うの。自分が着る洋服よりも愛犬に愛情を注いでいたのがわかる。人は寂しさの行き場を探し求めるものなの。きっと、それがこの女性にとってはペットだったんだろうね」

 それを表すかのように、妹によると、見つかったガラケーには、犬の預け先や仕事場以外の人とのつながりを示す連絡先や写真は、一切なかった。

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写真はイメージ ©iStock.com

 よそ行きの洋服は仕事用と思われるスーツだけ。唯一、犬の散歩用のラフな洋服がハンガーにかかっていた。遺影になりそうな写真が全く見つからないため、上東は、書き損じた履歴書に貼ってあった証明写真をかろうじて妹に手渡した。

 女性の仕事は、数カ月ごとに派遣先が変わる事務職だ。家族とも疎遠だったこともあり、会社が休みであるお盆の期間は、毎年一人で過ごしていたらしい。ただでさえ入れ替わりが激しい職場で、お盆明けに職場に出勤しなくても、女性の部屋を訪ねてくる人はいなかった。

 上東は女性についてこう語る。

「数カ月単位で職場は変わるし、たとえ職場の同僚と仲よくなっても、また別れが来るよね。だから、あまり職場の人とも深入りしない付き合いをしていたんじゃないかな。

孤独死の可能性を高める働き方の志向

 ただ唯一、犬の散歩をしていれば近所の人と仲よくなることもある。たわいのないコミュニケーションでほほ笑み、一日が終わる。この女性はきっと心の優しい素敵な女性だったと想像するよ」

 女性は就職氷河期の真っただ中で、派遣社員という働き方を選択せざるをえなかった可能性もある。ニッセイ基礎研究所は、「長寿時代の孤立予防に関する総合研究~孤立死3万人時代を迎えて~」という研究結果から、【社会的孤立者の特徴(傾向)】を割り出している。その中に、働き方として、「割り切り」「仕事優先」志向の人が挙げられている。

 この女性のように数カ月ごとに派遣先が変わる流動的な職場だと、人間関係が希薄になり、その場その場での割り切った人間関係になりやすく、濃密な関係を築くのは困難になるのだ。

 また、ストレスを一人で抱え込んでしまい、一度心が雪崩のごとく崩壊すると、家の掃除をしなくなり、部屋の中を徐々にゴミが占拠していく。中には、衣類を天井ほどまでため込んだ女性もいた。