京都・蓮久寺の三木住職のもとには、助けを求める人が絶えません。ポルターガイストに悩まされる人、人形をお祓いしてほしい、さまよう霊を供養成仏させてほしい……。そんな実話や自身の体験など、現代の怪談、奇譚の数々を収めた『続・怪談和尚の京都怪奇譚』(文春文庫)より背筋の凍る2篇を特別公開。見えない世界に触れることで、あなたの人生も変わるかもしれません。
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知り合いの女子大生、吉田さんの最初のお客様
皆さんは、「レンタル彼女」というお仕事をご存じでしょうか。聞かれたことのない方も、大体の想像がおつきかもしれません。
レンタル彼女とは、彼女をレンタルする、すなわちお金を払って、一定の間、彼女になってもらうというものです。
このレンタル彼女というお仕事があるのを知ったきっかけは、私の知り合いの女子大学生の吉田さんから、このアルバイトをするとお聞きしたことでした。
彼女によりますと、主な仕事の内容は、お客様の話し相手、食事相手になるというもので、簡単に言えば、人に言えない悩みや愚痴を聞くことだそうです。
今回は、この大学生の吉田さんが体験されたお話です。
私がこのお仕事を始めて、最初のお客様は、年齢が30代半ばの男性で、小太りでリュックを背負った、長髪の方でした。
この男性は、女性と話をするのが苦手で、レンタル彼女で女性と話が出来るようになるための練習をしたいと、申し込まれたのだそうです。
初め男性は、私の顔も見られないほど緊張した様子でした。俯いて何もお話しされないので、会話のきっかけを作るにはどうしたらよいかレクチャーしたのです。
「まず女性に、趣味は何ですかと、男の方から聞いてあげたらどうですか」
「あ、あ、そうですね。それじゃあ、趣味は何ですか」
男性の声は小さく震えています。
「私の趣味は、クマのグッズを集めることです」
「あ、そうですか……」
また俯いてしまった男性に、すかさず諭します。
「そういう時は、どういったグッズですかって、話を膨らまさないと」
「なるほど。どういったグッズですか」
「そうですね、クマのグッズというのは、このキーホルダーとか……」
その後も、私のアドバイスを、男性がオウム返しで話すことを繰り返し、早くも1時間が過ぎようとしていました。
最後に、「髪は長いよりも、短い方が似合うと思いますよ」と言って別れました。
1人暮らしのアパートの部屋に戻って、男性に話し方や髪型まで変えるように言ったのは、言い過ぎたかもしれないな……と反省しました。もしかしたらもうレンタルされないかもしれないとも。
しかし予想に反し、1週間ほどが過ぎた頃、会社から、再びあの男性から指名があったと連絡が来たのです。