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「怖い話」が読みたい

2019/08/11

genre : エンタメ, 読書

 袋の中身は、クマの縫いぐるみが付いたスリッパでした。

「いつも、ありがとう。これも大事にしますね」

 男性は嬉しそうに帰って行かれました。

 部屋に帰って暫くすると、何となく体がだるく感じて、そのまま寝てしまいました。気が付くと朝になっていて、何か食べようとしたんですが、熱っぽくて食欲もありません。風邪でも引いたのかなと、近くの病院に行って薬をもらって、休むことにしました。しかし翌日も、翌々日も、1週間経っても、体調は一向に良くならず、風邪のような症状が続きました。その間、あの男性からの指名があったのですが、行けるような状態ではなく断りました。

 月末になって私は、家賃の支払い期日が迫っていることに気付きました。そもそも両親からの仕送りだけでは払えないので、レンタル彼女のアルバイトを始めたほどです。休んでばかりはいられないのですが、相変わらず体調は優れず、心配は積もります。

©iStock.com

 そんなとき、あの男性からの指名が再び入りました。これは逃せないと、無理をおして男性に会いに行くことにしたのです。

 いつものカフェで待ち合わせをして、やってきた男性は開口一番、

「体調を悪くされていたんですよね。大丈夫ですか」

 と気遣ってくれました。そう言う男性の方も口にマスクをしています。聞けば、彼も風邪を引いているとのこと。

「私も、ちょっと風邪を引いてしまって」

「どんな症状がいつから出たのか詳しく聞かせて下さい。良い病院を探します」

 そういって事細かに私の病状を聞き、メモにまで書いていました。

 この日も終わりに近づいた頃、いつものように男性はプレゼントがあると言いながら、カバンから大きな袋を出しました。その袋の中身は、クマの縫いぐるみでした。

「熱が出てしんどいのに、来てくださってありがとうございます。この縫いぐるみを抱いて、風邪を乗り切ってください」

 と優しい言葉まで掛けてくれました。私は本当に感動しました。

(なんて優しい人だろう。自分も風邪を引いているのに私の心配ばかりしてくれて)

 部屋に戻ると、無理をしたせいか、熱だけではなく吐き気ももよおしてきました。夜にはそれに加えて下痢もひどくなり、ゆっくり寝ることすら出来ないほど体調は悪化しました。

 男性からもらったクマの縫いぐるみを抱えながら、ひとり苦しみと闘っていました。

 翌日、大学の友人が訪ねてきてくれました。体調を崩して以来、ずっと学校を休んでいたので、心配になって様子を見に来てくれたのです。

 私がやつれてしまった姿にびっくりした友人は、すこし考えた後、こんなことを言い出しました。

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