小学生の頃から「お岩さま」になりたかったんです。周りが「スーパーマン」や「エスパー魔美になる!」と夢を語るなかで、私だけがお岩さま(笑)。きっかけは、夏休みに田舎の祖父母の家で観た『四谷怪談』のドラマでした。もう、怖くて怖くて、眠れないほどの衝撃を受けて。お岩さまは夫の裏切りにあい、顔がただれて醜く惨めな姿になりますが、武家の娘である誇りは揺るがない。芯の強さ、美しさに私も取り憑かれてしまったのだと思います。
いつか『四谷怪談』を語りたいと長年願っているものの、やはり憧れが強すぎて踏み出せず……。本当は4年前にお芝居として演じるはずでしたが、コロナで中止になってしまったんです。これはきっと、お岩さまに「お前はまだその段階ではないぞ」と言われているのだと思いまして。日々、猛勉強しております。『四谷怪談』は演じた者に必ず障りがあると言われているのですが、やり遂げたあかつきには、私、取り殺されても構いません。
怪談師のなかでも、私のように古典を語っている方はとても少ないと思います。噺家さんと違って師匠もいませんので、勝手ながら語り方を色々と試みています。言葉遣いを現代に寄せているのは「古典ってこんなに面白いんだ」と知ってもらうため。私の語りを入口に「じゃあ落語や歌舞伎でちゃんと原典に触れてみよう」と思っていただけたら本望です。伝統芸能をずっとずっと繋いでいく、小さなきっかけになれたらと願っています。