怪談の根源にあるテーマは“金と恋愛”
『牡丹灯籠』もね、カランコロンと下駄を鳴らして……というくだりは、皆さんうっすらご存じだろうと思うんです。けれど、その前後はほとんど知られていない。ぜひ全編読んでいただきたいです。もう、衝撃ですから。落語家の三遊亭圓朝が25歳の若さで作った怪談でして、お師匠さんから受けたいじめが創作の発端とされています。自分が話そうとしたネタを先にやられてしまうから、誰にも真似されない新しい噺を作ってやろうと。
『四谷怪談』でお岩さまに命を吹き込んだ鶴屋南北も、差別された憎しみや悔しさが筆を執る原動力でした。そうした思いをされている方って、今も学校や会社にたくさんいらっしゃいますよね。語るたびに皆さんの情念や共感がのって、作品としての層がどんどん厚くなり、深さも増していく。そこが古典の面白さですね。
私は実話怪談も語っていまして、地方に行ってお年寄りにインタビューするなど、足でネタを稼いでいます。怪談って、人生を聴くことなんですよ。言葉遣いや人柄、何を恐怖と感じたのかが、肉声を通して鮮やかに立ち現れてくる。実はめちゃめちゃ怖がりなので「なんでそんなに恐ろしい話をするんですか!」とインタビュー中に半泣きになることもありますが(笑)、とても興味深いです。面白いことに、現代の幽霊はスマホやUber Eatsも駆使してアップグレードされていますけれど、根源のテーマは鶴屋南北の頃から変わらず“金と恋愛”。人間って、永遠に学ばない生き物だなぁとしみじみ感じます。