あたくしは31歳まで演劇の世界にどっぷり浸かっておりましてね。アマチュア劇団を立ち上げたほどで、そりゃもう、アツかった。でも団員を食わせていくにはどうにも苦しくて、きっぱりと劇団を畳んだんです。ところがそれまでずーっとお芝居のことしか考えずに生きてきましたから、どうにも社会に溶け込めない。1年ほど無職でボーっとしていた時、地元・北海道の「怪談ライブバー」に語り手として巡り会ったんです。
一生懸命“怖がらせる”ことに注力したんですけれどもね、お客様が帰り際「怖すぎるのでもう来ません」と震えていまして。なんだかね、喜んでいただくどころか負の感情を増幅させて、自分は一体何のために舞台に上がっているんだろうと……。あんまりにも辛くなってしまったんです。もう辞めようかと考えていたら、先輩が「城ちゃん、怪談は話芸なんだよ」と講談師の一龍齋貞水先生を教えてくださいまして。
さっそく映像で『江島屋騒動』を観ましたら、これが面白くてですね。「ああ、そうだよな。怪談は話だけでお客様と向き合うんだ」とスッと腑に落ちたんです。ひたすらに怖い語りは、他のどなたかが極めていらっしゃるでしょう。あたくしは「負の側に落ち込みかけている方が、もう一回、浮上できる」――そんな語りを目指そうと決めました。