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「命を絶つ決断」をしたお客様から打ち明けられた言葉

 有り難くも“城谷節”なんて呼ばれますけれども、あたくしの語りは随分ゆっくりでしょう。現代の急流にのまれてあっぷあっぷしている方達が、城谷の噺を聴いている間は「ごめんね、世の中」とちょっとカーテンを閉じて、ふーっとひと息ついてくれたら嬉しいですよね。そうしたら、溺れかけて苦しんでいても、ひょいと立ち上がって「なんだ、底なしの海かと思ったら、こんなに浅瀬だったんだ」と気づけるかもしれない。

本人提供(2023年7月1・2日開催「怪談師 城谷歩 独演会『全心全霊 Vol.2』」より)

 そうなったらね、あたくしから離れてくれていいんですよ。苦しみの只中にいるから聴くのではなく、いつか「そういや昔、城谷の怪談を聴いたっけなあ」と懐かしく振り返ってくれたら本望です。馴染みだったラーメン屋を覗くようにしてね、のれんをひょいとあげて「おお、まだやってたんだ」って。あたくしはいつでも提灯を灯して「おかえりなさい」と迎えますよ。

 これまでに3回ほど、「命を絶つ決断」をされたお客様にライブ会場でお会いしました。見た目にはまったくわからんのですよ。周りに気取られないように振舞っていらっしゃいますから。でもね、なんだか気にかかるんです。それで人目に付かないところで声をかけると、涙ながらに「実は……」と打ち明けてくださって。「でもなんだか今日のお話を聴いて、もうちょっと生きていてもいいような気がしました。明日も頑張れます」と仰ってくださった方もいました。

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本人提供(2023年7月1・2日開催「怪談師 城谷歩 独演会『全心全霊 Vol.2』」より)

 やっぱり人は孤独がいちばん苦しいんじゃないかと思うんですよ。どんなに目の前に人が溢れていようと、接点がなければね。むしろ強烈に「独り」を感じてしまう。そんな時、べたべたするとか、飯食いに行くとか、連絡先を交換するなんてことをしなくてもね、ライブ会場なんかでお会いして「また来てね」「また来るよ」――そう一言交わすだけでも、人って繋がっていられるんじゃないかと思うんです。城谷はどこまでも皆さんの隙間に生きている人間です。社会に馴染めなかった一人として、あたくし自身も、怪談を介してお客様と繋がり、救われているんです。